アイ ラブ クレーンゲーム
さいはて旅行社
第1話 ハイエルフとペロペロキャンディ
そのとき神は舞い降りた。
私は出会ってしまったのだ。
ゲームセンターで。
私の名前はクリフトス・アーガラー。親しい者はクリフと呼ぶ。
種族はハイエルフだ。本来なら耳が長いのだが、そこは魔法で人間と同じ耳にしているご都合主義だ。
年齢は二百五十一歳。ハイエルフのなかではまだまだ若手だ。
長いストレートの金髪、碧眼白肌で見目麗しい姿なのだが、よく大学では「お嬢ちゃん、迷子かな?」とか「お兄さんかお姉さんに会いに来たの?」とか聞かれるが、あくまでも成人女性だ。
身長は高い方ではない。小柄だ。だからこそ、そのような口を聞く者が多いのだろうが、よく見ていれば溢れる気品が漂っている。その証拠に大学でも良く話す者たちからは容姿に関して何も言われたことがない。種族の違いから少々幼く見えるのだろうが、私と多少なりとも付き合えば大人の雰囲気を纏っていることに気がつくのだろう。
大学で「合法ロリだ」と私に向かって叫んだ馬鹿者に「ああ?」(注:ややドスを含む声)と問いかけたら、恐れをなして飛んで行った。大人の対応とまではいかなかったが、手を出さなかっただけ私は進歩している。故郷で私にそんな口を聞いたら、そんな奴は半殺しだ。まあ、怒りの魔力が駄々洩れていたことは致し方ない。
ここは日本の都内某所にある桃山大学である。
今年、私は大学二年生になった。日本に来て二年目。日本で異世界へ通じる門が見つかって十年ほどがたとうとしている。異文化交流としてお互いに留学生を交換する取り組みがはじまり、私もそれに応募した。
さすがに二百五十一歳で、知識の宝庫である巨大な図書館を持つハイエルフ、大学レベルの試験は軽々突破した。他の種族も地球の様々な地域に留学しているが、ハイエルフは基本的にひきこもり体質がある。新しい存在に触れたい好奇心はあるのだが、できるだけ近場に、そう、異世界の門の近場を選んでしまったのはどうしようもない。まずはここで慣れてから、自分の世界を広げても悪くない。
あれは私が日本に来て半年ほど過ぎたときだった。
大学でも一年生で、学校にもこの世界の生活にも慣れるために慌ただしく過ぎていったが、その頃になるとここでの生活にもずいぶん馴染んできたと思っていたときだ。
大学ではよくお菓子を貢がれるが、私のノートやレポート目当てだろうか。私は心が広いので特に貢がなくても、一緒に勉学する者として知識を分け与えてやるのもやぶさかではないのだが。
今日はお菓子のひとつにペロペロキャンディなるものをもらった。飴がぐるぐる渦巻になって棒に刺さっている代物だ。このキャンディは舐め続けるのではなく、端の方から小さく齧っていくのだ。時間はかかるが意外とイケる。
ペロペロキャンディを齧りながら、大学からの帰り道、大通りから駅に向かう。
飴がいけないのか、今日はよく通行人の視線をもらう。食べ歩きはマナーが悪いのはわかるが、袋は捨ててしまったので口に咥えて帰るしかあるまい。買い物用のマイバッグはいつもリュックに入れているが、あれに飴なんぞを入れたらベチョベチョになる。好奇心に負けて大学で袋を開けてしまった私が悪いのか。まだ、通行人は微笑ましく見ている程度で、注意するような視線でないのが救いだ。
騒がしい声が聞こえた。
取れたー、すごーい、とか騒いでいる。
そうだ。このペロペロキャンディが気に入って、この飴をくれた人物に購入した店を聞いたのだが、駅の近くのゲームセンターのクレーンゲームでとったんだよ、と教えてくれた。
それがこの店だ。
クレーンゲームというのはまだやったことはないが、知識としては知っている。
世間一般で広まっている「UFOキャッチャー」という呼び名はセガの登録商標なので、この話での呼び方はクレーンゲームと統一しておく。誰かがそう発言していてもフィルター魔法が発動してクレーンゲームと変わるのでご了承願う。
ペロペロキャンディはどのような状態でクレーンゲームされているのか。
一度ぐらい見ておくのもいいかと考え、店内に入ろうとした。
息が止まった。
ここには神がいる。いるに違いない。
クレーンゲームのマシンのなかには、私の大好きなにゃにゃタロのぬいぐるみがこれでもかと並んでいた。
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