かけがえのない家族の風景

逢坂 透

第1話 妻のレポートタイム

6時15分

目覚ましが鳴る少し前

僕も妻も同じように目を覚ます


アラームを解除

ベッドのなかで向き合って、おはようと頬に触れる


囁くように

妻が前日の様子を伝えてくれる


・・・


ケントがね、小学校に行きたくないって


どうしてって、聞くと

藤野先生とバイバイするのが嫌だって


そっか

先生、ケントのことよく見てくれたから


入園したての頃

あの子の描いた絵は、色がなくて、真っ黒だった


僕らは心配になったんだけど

“大丈夫”って言ってもらって

すごく安心したよね


そう

引越してきて、お友達もいなかった

ケンが、楽しく過ごせたのは

藤野先生が2年間見てくださったから


小学校でもいい先生に出逢えるよ

きっとね


そうね


・・・


それから

ユウトがね

オムツが嫌になったみたいで


はかせても

すぐ脱いでしまうのよ


裸で逃げて

追いかけると、喜んじゃって

もう大変


そろそろトレパンかな


トレパンもきっと脱いじゃうけど


・・・


ミオリがね

おっぱい、たくさん飲むようになって

でもミルクは嫌みたいで


ずーっと、乳首に吸い付いてるの

出なくっても


吸引力が凄くて、痛いくらい

おかげで、乳首の形変わっちゃった


胸も、もう全部、吸われて

小さくなってきたみたい


まだこれから、いっぱい飲むから

ミルク飲んでくれなきゃ困る


哺乳瓶の吸い口

気にいるの探さなくっちゃ


・・・


そんな朝の

静かな妻のレポートタイムも

やがて終わりを告げる


近所のラジオ体操の音が流れ出す頃

ミオリが、ムズムズと両手足を動かして伸びをする


ハっと、気づいたように目を開けて

泣き声をあげる


妻は抱っこ紐を装着して準備を整える


嵐の朝がやってきたのだ


ミオリに乳首を与えながら

朝ごはんと、お弁当の準備が始まる


慌ただしくなった気配に

ケントが起き出してくるだろう


朝からきっとおしゃべりが止まらない

ご飯

着替え

トイレ

その度に、おしゃべりを止めなきゃ


最後にユウトの登場だ

今日の報告によると

オムツをせずに走ってくるだろう


トイレで無事おしっこさせられるか

失敗したら大変なロスになる


テーブルの上でも

きっと何かが起こる


食べ物が転がるくらいならよし

コップを倒さないでくれ


妻からミオリを預かり

トントンとゲップをさせる


凄い早技で着替えてくる妻

お化粧は無理だ


僕はそこまで

朝の嵐の中にいる妻にキスをする

その1秒に心を込めて



次に会えるのは夜だ


だが、その時の妻は

こどもたちの間で、斃れて眠っている


だから

また、明日の朝ね


今日のレポートを聞かせてよ

朝の嵐の前の静けさの中で

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