第31話
「ディアが私を好き?」
驚いた顔をするルードルフ。
まあ、散々彼との婚約を嫌がっていたからね。
それにしても助けてもらった時に一度言ってしまったのだから驚かなくても良いのに。
「……一つ聞いても良い?」
「何でしょうか?」
「君が覚えているか分からないけど馬車の中でも君は告白してくれたんだ」
「覚えていますよ」
目が覚めた時は自分のやらかしで死にたくなったけど。今なら怖がらず、逃げ出さずにルードルフが好きだと言う事が出来る。
「眠る前に言った言葉を覚えている?」
救出してもらった際、目を覚ました私がもう一度眠りに落ちる前に言った言葉は。
『本当は好きになっちゃいけない人だったのに…。好きになってごめんなさい…』
だったはず。
あー、これはちゃんと説明しないといけないわね。
「私、ついさっきまで自分は破滅する悪役だと思っていたんです。だからルード様を好きになってはいけないと、好きになったら困らせるだけだと…。そう思い込んでいて…」
好きになる事を許されていない人だと思っていた。
怖がって怯えて逃げ続けていたのだ。
「デート最中に逃げ出したのはルード様を好きだと気が付いてしまったから。一緒にいたら気持ちが溢れ出てしまいそうで逃げ出したんです」
迷惑をかけて申し訳ありません。
深く深く頭を下げて謝るとすぐに「頭を上げて」と言われる。
「ディアは本当に私が好きなのか?」
「本当です。私はルード様が好きです」
真っ直ぐ見つめて伝える。
呆然とするルードルフは一筋の涙を流した。
どうしよう、どうして泣いているのか分からない。
「私も好きだ。愛してる」
分かっていたけど言葉にしてもらえると嬉しくて堪らない。
私が好きと伝えてルードルフが泣いた気持ちがよく分かる。
「本当はデートの際に告白しようと思っていたんだ…」
「そう、なんですか…」
「その前に逃げられたから嫌われていると思っていたんだけど…真逆の理由だったな」
好きだと気が付いて逃げ出すとか普通は思わないでしょうからね。
しかも告白しようとしている真っ最中に逃げられたらトラウマものだ。
告白しようとしていると知らず本当に申し訳ない事をしてしまった。
「出会った時からディアが好きだ。初めてディアを見た時から君しか妃にするつもりはなかった。卑怯な方法で婚約者になってしまったのは本当に悪いと思っているけど、どうしても他の男に君を渡したくなかったんだ」
出会った時からって…。
しかも私を他の人に渡したくないから卑怯な方法を使って婚約者になったとは。
強制力じゃなくルードルフが私を好きになったからこその婚約だったのか。
全く知らなかった事実に衝撃を受ける。
シーラッハ公爵家が目的かと勘違いしていた馬鹿な自分が恥ずかしい。
「それならそうと最初に言ってください…」
「いや、遠回しに気持ちは伝えていたつもりだけど」
「もっとはっきり言ってくださいよ!貴方の気持ちを知っていたら…私は婚約を嫌がったりしなかった。もっと早く好きになっていたのに…」
最初からルードルフの気持ちを知っていたらゲームの事など考えずにもっと楽しい婚約者生活を送れていたのに。
「…ってすみません。ルード様よりも私の方が悪いですよね。貴方の全く気持ちに気が付かない上で自分を断罪する人間だと決め付けて…」
ゲームと現実のルードルフは別人なのに。
彼が私を好きになるわけがないと決め付けていた。
私は責められる立場じゃない。
「ディアは悪くない。私はもっとちゃんと伝えていたら良かったんだ」
「ルード様は悪くありません…!」
「ディアこそ悪くない!」
「いや、ゲームの事ばかりで貴方を見ようとしなかった私が悪いのです!」
「君が思い悩んでいる事に気が付かず自分の気持ちだけで身勝手な行動をしていた私が悪い!」
お互いに「ルード様は悪くない」「ディアこそ悪くない」と言い合う。
十回くらい繰り返したところで揃いも揃って息切れを起こす。
「もうどっちも悪くなって事にしないか?」
「ルード様がそれで良いのなら」
ここまでは埒が明かなかったのでそう言ってもらえて助かる。
「私はディアが好きでディアは私が好き」
これで良いじゃないかと笑うルードルフに大きく頷いた。
それにしてもまさか両想いになる日が来るとは思わなかったわ。
予想外の結末に夢心地状態になっているとベッドに乗り上げてきたルードルフに抱き着かれる。起こしていた身体が沈み込む。
「ディア、好きだ。結婚しよう、今すぐに!」
「い、いや、無理ですから。あとこの体勢は色々と不味いです」
そう、押し倒されているのだ。
誰かに見られでもしたら死ねる。
「ディアは私と結婚するのが嫌?」
「もちろん結婚したいですよ!でも、今すぐには無理です!」
私達は学生になったばかりなのだ。
結婚予定まで二年以上ある。
勝手に早める事は許されないだろう。
「仕方ない。学園卒業まで待つよ」
「あ、ありがとうございます。それと退いてください」
「嫌」
そう笑ったルードルフに口を塞がれた。
何度も何度も重なる唇が離れてくれたのは一時間経ってからだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。