幕間2※ルードルフ視点

お茶会の当日。

呼ばれるまでの間、中庭で待機をしていると兄バルデマーがやって来た。


「ルード、憂鬱そうだな」


苦笑しながら言われるので小さく頷いて「憂鬱です」と返す。

隠しておいても仕方ない相手だと分かったから素直に言うと何故か頭を撫でられた。


「婚約者か。俺よりも早く決めるのだな」

「選ぶ権利を与えられましたが母上には婚約者になってもらいたい人が居るそうです」

「従妹殿か」


一瞬で誰なのか分かってしまう兄の察しの良さに感嘆する。

頷けば兄は苦笑いをした。


「従妹が噂通りの人間だったらお前は苦労するだろうな」

「やはり噂通りの子なのでしょうか?」

「いや、俺も会った事がないから分からない」


不安が募る。

もし噂通りの子だったら他の令嬢を婚約者にするしかなさそうだ。


「お話の最中に申し訳ございません」

「いや、良い。ルードを呼びに来たのか?」

「は。その通りでございます」

「すぐに行きますので先に向かってください」


呼びに来た衛兵を送り出し兄に向かい合う。


「良い縁に出会えると良いな」

「私と共に兄上を支えてくれる方を選びたいと思います」

「お前を幸せにしてくれる子を選べよ」


またな、と行って去って行く兄を背にして歩き出す。



お茶会の会場に着くと呼びに来た衛兵が大声を上げた。


「ルードルフ第二王子殿下のご入場です」


その言葉を合図として会場に入る。

一斉にこちらを見つめる令嬢達は獣のような目を私に向けていた。

この中からまともそうな人を選ぶのは骨が折れるかもしれないな。

そう思った瞬間、一人だけ獣の目をしていない令嬢がいた。

母と同じ席に座っていた令嬢だけは冷めた目で私を見つめている。

あの子は誰だろう。

母上と同じ席にいるのならすぐに話せる。しかし私が近づくよりも早く彼女は母に礼をして素早く立ち去って行く。まるで私から逃げるかのように。

一瞬目が合ったがすぐに逸らされてしまう。


私が母の席に到着する頃には冷めた目をする令嬢は遠く離れた人が居ない席に着席していた。

隣に立った母が挨拶を始める。

私の意識は彼女に向いていた。


「皆様、我が息子のルードルフです。実は本日はこの子の婚約者を決めるために皆様に集まって頂きました。私も陛下も息子の意思を尊重したいと思っております。この子が良い縁で結ばれる事を期待してます」


はっきりと母が婚約者の話をした瞬間、令嬢達の目が更に鋭いものに変わった。

変わらず冷めた目をした彼女を除いて、だ。


早く彼女と話したい。

そんな気持ちのまま一歩前に出て挨拶を始める。


「初めまして。私はルードルフ・フォン・ロタリンギアです。本日は皆さんと楽しんで話したいと思っていますので気軽にしてくださいね」


王子らしく笑顔で挨拶をするが私の意識は相変わらず彼女に向いていた。

彼女と気軽に話したい。

彼女の事を知りたい。

冷めている自分にこんな感情があるなんて知らなかった。名前も知らぬ令嬢に恋に落ちかけているなど。

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