詩集 鏡箱

終わりの始まり

時はつねに流れている

それは誰にもひとしく

誰もその流れには逆らえず

そこに留まることも許されない

たとえどんなに強く願っても

生命には終わりがある

どんなに生きたいと願っても

その願いが本能であったとしても

たとえどんなに強く望んでも

秩序あるものは無秩序になっていく

形あるものはいずれ崩れていく

割れたコップが直らないように

こぼれた水はもう戻らないように

エントロピーはつねに増大していく

それが自然の摂理であるから

産まれたばかりの心は

白いキャンバスのように汚れもないが

やがて嘘をつくことを覚えていく

ただ生きているだけで

たとえそれが優しい嘘だったとしても

そして透明だったものは傷だらけになっていく

それでもあなたは言うのだろう

口からこぼれた言葉はもう戻らなくても

取り戻すことは可能だと

たとえ壊れてしまった関係でも

直すことはできるよと

傷ついてしまった心でも

癒やしてあげたいのだと

あゝ　雨よ

涙の雨よ

この心から

悲しみをすべて洗い流しておくれ

あゝ　雪よ

心に降り積もる雪よ

この醜い心の穢れをすべて隠してほしい

そして何もなくなった

真っ白なキャンバスの上に

二人が歩いた足跡が残る

未来へと続いていく

並んで歩いていく

時はつねに流れている

誰もその流れには逆らえない

あなたとの恋の始まりは

その恋の終わりの始まりでもある

始まらなければ終わりもない

たとえそうだとしても

それが真実だとしても

あなたを好きにならずにはいられない

この命が燃え尽きるまで

けして終わることはない

その終わりが

いま

始まる