相棒

久しぶりにエンジンをかけようとしたら


バッテリーがあがっていた


冬のあいだに外しておくべきだった


ふうぅぅ


覚悟をきめるか


キーをオンにして


ギアをニュートラルにして


家のまえの坂道を勢いよく駆けおりる


左手のクラッチを握ったまま


走りながら片足でギアを入れて


アクセルを回す


オルタネータが点火プラグをスパークさせて


ドッ ドッ ドゥン


惜しい


気を許した瞬間 


足もとがふらついて転びそうになる


ヨタヨタになりながらなんとか踏ん張り


はあぁぁぁ


と大きくため息


どっと冷や汗がふき出る


チョークあけるの忘れてたよ


重い車体を押してもう一度


坂道を上がっていく


したたり落ちる汗


うまくいくのかという不安


体力が持つのかという不安


袖まくりした腕がじりじりと日に焼かれる


ええいままよ


とことんお前と付き合おうじゃないか、相棒


ブォン、ドッドッドッ


結局そのあと3回目でようやく息を吹き返した


バッテリーの充電がてら


鉄の馬にまたがり


とりあえずと走らせる


汗でだくだくのシャツを風が吹き抜けていき


不快な気分は一気に爽快になる


久々に聞くお前の


フォーストロークの落ち着いたサウンド


ギアを上げれば


身体はどんどん軽くなり


心地良いアクセルが


加速していく


日常がすべて後ろに流されていく


頭の中の地図が


目的地のないナビをつくる


なぁ あの橋を渡ろうか


海を見ながら


久しぶりに


風になろうか

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