こんな朝には

朝 目が覚めると


君の姿はもうなかった


先に仕事に出かけたようだ


いや もしかして


あれは夢だったのだろうか


二日酔いの頭で


ベッドで微睡んでいると


枕カバーに


長い髪が一本


落ちているのが見えた


それを見た瞬間


鉛を呑み込んだような気になって


枕に顔を埋め


君の残り香を探してみた


年甲斐もなく


なぜか涙が溢れてきた


小鳥の声が聴こえる


都会にも


小鳥のさえずりはあるのか


さあ もう目を開けて


新しい一日をはじめよう


夢は夢


まことはまこと


コーヒーメーカーに残った珈琲を


再加熱して


少し焦げくさいまま


一気に飲み干す


こんな朝には


この苦さが血液になる


うつし世はゆめ 夜の夢こそまこと


そう言ったのは


確か乱歩だっただろうか


小鳥の声は


もう聴こえなかった


遠くでスクーターの


駆け抜ける音が響いた


心のエンジンには


今朝はチョークが必要なようだ




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