第8話
「なんかさここ最近パーティーとお祝いとかそんなんばっかじゃない?」
そう呟いた俺に佐藤愛子は
「日本人の癖にこの日本の特殊な日本っぽいクリスマスを味あわないでどうするつもり?それでもたっちゃんは日本人なの?」
何この人。日本大好きなの?日本人に誇り持ってて日本上げしてくる日本大好き外国人ブログとか読んで喜んじゃうタイプ?
ま、クリスチャンでもないのにクリスマスかよ!ケッって思っていた去年までの俺と違って、今年はそのクリスマスを存分に味合う機会を頂けるようで、ネットに匿名でクリスマスは中止になりましたって書き込まなくてもいい事に、今、冴木龍臣は喜びを感じています。
悪いな。去年までのクリスマス中止委員会の同志たちよ。
今年の俺はクリスマスパーティーを存分に味わう側に立ってしまったよ。
で、そのパーティーはクリスマスパーティーと言うほどでもないらしく、ここ最近よく行くようになったフットサルコートで、バーベキューをやりながらボールも蹴ってクリスマスしちゃおうみたいなノリで行くらしい。
佐藤愛子の誕生日が二十日。翌日の日曜がある意味俺の昇進祝い。
で、明後日が二十四日の水曜日でフットサルデイで、イブで、BBQだぜクリスマスってチラシを田原祥と望月朱美にもらった。
茅ヶ崎彩音も半田和成も渡辺真那も行きたいってなって、大学生の濱野さんと澤田菜緒も来ると聞いた。
もちろん長富杏香も来るだろうし、澤田菜緒へのサプライズでねぇねも連れて行くかな。
予定聞いてみよう。
ちなみに二十五日は佐藤家にクリスマスパーティーのご招待をお受け仕っていたりする所存でございまして、何度かお邪魔しているのだがいつもは長富杏香もいるし、俺一人ってなると今から緊張してたりする。
クリスマスBBQの日は学校も終業式。
なので次の日からは冬休みだし、多少遅くなっても平気だろって佐藤愛子を中心にみんなで話していた。
その輪の中に入って普通に会話をする俺凄くない?って途中で気づいた時に佐藤愛子と目があった。
優しい微笑みを向けられている事に気づく。
本当こいつってなんでもお見通しですね。
思わず俺も微笑んだら
「なんか愛子とケンシがアイコンタクトして笑ってるんだけど!」
茅ヶ崎彩音にもなんか違うものをお見通しされてちょっと驚いた学校での一幕でした。
「日本人っぽいクリスマスは二十五日にお預けして、今日の放課後はクリスマスプレゼント購入企画!冴木龍臣は何が欲しい?佐藤愛子はたっちゃんからのプレゼントならなんで嬉しいなを開催します」
唖然としている俺の顔を見たからか、言い終わってから顔が赤くなって下を向いてしまった。
そんな恥ずかしいと思うなら無理して開催しなくていいのに…
「ま、なんかあれだけど、一応金は持ってきてるからお前のプレゼントを買いに行くか」
うんって小さな声でポソリと返事をして、未だに下を向いたまま、俺の手をギュっと握ってきた。
「何処で買い物する?この間はのあそこのモールのあの店にする?」
「お前と一緒にあの店に行くと、お前何十万使うか分からないから嫌だよ。なんで着て欲しいって理由であんなハイブランドの服何着も買ってもらわなきゃいけないんだよ。売れっ子ホストか俺は」
買ってもらった服を一通り並べると、その事を小春に報告した。並べられた服を見たり触ったりすると、驚いたように固まって、お金持ちのお嬢様と付き合うって凄いわねって真顔で言われた。
これ全部で軽くウン十万はするわよって聞いた時は、俺があげたネックレスはチョコにでもあげて欲しいと本気で思ったほどだ。
「愛ちゃんの隣に立ち続けたいなら頑張ってね」
俺の肩を叩いて笑っている。応援してくれるブラコンのためにも頑張る所存ではございます…
そんな感じで日曜の夜に俺の部屋にきた小春が、これ使いなさい。って渡してきたのはクリスマスプレゼントの購入の足しにって封筒に入ったお金だった。
封筒の中身は小春が管理してくれている一応俺の金らしい。
ま、俗に言う頂いた慰謝料の一部ってやつですかね。
「俺、あんま背伸びしてあいつに合わせないって決めてるんだよね」
そう言って封筒は小春に返した。
先日の佐藤愛子の誕生日の際に用意したお金がまだ十分残っている。なんならプレゼントしたネックレスを三本は買える分くらいはあるのだ。
バイトもしていない高校生なのだから十分に大金だと思っている。
「前に佐藤に、俺は今のところお金持ちになる予定は無いからお前とは釣り合いが取れないと思うって言ったら佐藤はなんて言ったと思う?」
ねぇねは小首を傾げて考えたのち、閃いたって顔をして
「たっちゃん。あなたがお金持ちにならなくても私が稼いでくるから何も問題ないわ。そんな感じ?」
佐藤愛子の真似が似過ぎてたのと、全く同じ台詞を言った小春の推理力に驚いた。
そのままの事言ってたわって言って二人で大笑いした。
「自惚れとかじゃなくて、俺があげたものならあいつはなんでも喜んでくれると思うし」
そう言った俺の頭をくしゃくしゃと撫でながら、ご馳走様って笑って部屋を出て行った。
と思ったらすぐにドアが開き、部屋にツカツカと入ってくると
「二十五日は愛ちゃんの家でクリスマスパーティーなんでしょ?妹さんとかお母さんにも何か買わないとだし、私にだって杏香ちゃんにだってプレゼントしないとなんだから、やっぱりこれは持ってなさい」
そう言って封筒を俺の膝の上に置くと、今度こそ部屋を出て行った。
「あの日はたまたまよ!店員さんたちにたっちゃん褒められて彼氏さんこれも似合うと思うなって持ってくるから…はい…ゴメンなさい。次からは気をつけます…」
佐藤愛子の顔を見ると少し言いすぎたかなって思うくらいシュンとしていたので、繋いでいた手を一度離すと、その手で彼女の頭をそっと撫でありがとうって伝えた。
チラッとこちらを見るとギュっと腕に抱きついて来たからこの対応は成功したらしい。
「他の人へのプレゼントもあるし、今日はお互いに本当に欲しいものをプレゼントしようよ。俺あんま物欲ないから今のところ何もないけどさ…」
「私はたっちゃんからもらったものなら、その辺に落ちている小石でも一生大事にする自信があるわ。なので私も特にこれって言うものはないかしら」
「佳奈ちゃんなんか欲しいものとかあるのかな?お前のお母さんが一番厄介だわ…長富先生にものあげるより頭抱える。あれ?クリスマスパーティーってお父さんもいるの?」
そう言った後、少し影があるような顔をした後に、お父さんはいないと言っていた。
どちらの意味でのいないなのか。
本当にいないのか。その日に帰ってこれないからいないのか。
その事を聞かれたからその顔なのか。寂しいからその顔なのか。
その日、その話題を深堀することはせずにそのまま話を流した。
「そう言えば、私の一番欲しいものって決まっていたのを思い出したわ」
チラッとこちらを見る佐藤愛子。
「ん?何高いの?流石にお嬢様の価値観基準では買えないぞ俺…」
転生したら皇族とかに産まれ変われるように祈っててね。
「ま、私のなかでは凄い高価なものだけど…」
チラッとこちらを見る佐藤愛子。
ん、それって…
自分で自分を指差してみると、恥ずかしそうにコクリと頷く。
そう言う突然なのやめて欲しいんだけど…
こっちの方が恥ずかしくて顔赤くっちゃうから…
「ま、あれだ。その辺はもうほとんどお前のものっていうか、ま、関係性とかはなんかあれだけど、気持ち的にはもうはっきりしていると言うか、その大事にしていると思ってるし、ん?え?そう言う事じゃなくて?欲しいってのは肉体的に…」
言い終わらないうちに真っ赤な顔した佐藤愛子に背中を思いきり叩かれた。
「財布とかは高そうだけど小銭入れは…使わないよね。あ、キーホルダーとかは?」
もうさっきからどんな会話をしてもチラッと俺を見ては赤い顔をしたままで、目が合う度に俯いてしまう。
そんな佐藤愛子の顔を見て、ついこの間のキス未遂を思い出してしまいドギマギしてしまうという悪循環。
うーん…非常に困った。
このままじゃお互いに恥ずかしいが限界値を振り切ったままなので、カフェで行って休憩する事を提案すると頷いてくれた。
「ゴメンね…ちょっと想像したらすごく恥ずかしくて…」
「ア、アホ…何言ってんだよ。想像するとかそう言うこと言うのやめてくれ…言ったこっちが悪いんだけど…落ち着こうと思ってお茶してるのに、余計に恥ずかしくなったじゃんか」
また二人で顔を赤くして黙り込んでしまう。
落ち着く為に入ったのに、この店に着いてからもほとんどなにも話さず、目が合うと微笑む程度。これお見合いだったら確実にお断りされているレベルだな、
「うーん。どうしようか。今日はもうやめとく?」
はって驚いた顔をして、プルプルと首を振る。ボソリと頑張るから。カフェオレ飲んだらいけると思う。
佐藤愛子がそう言うもんだから、無言でメニュー開いてカフェオレの説明書き探したよ。
そんな成分入ってたのなら、俺もカフェオレにすればよかったってちょっと後悔。
三十分くらい、その店でのほぼ無言のお見合いを終了させてから席をたった。
手を出すと、恥ずかしそうに、でも意を結したように手を握ってきたのだが、ダンスのお誘いありがとうみたいな感じで指先を乗せる程度。
それに思わず笑ったら、彼女もなんだか可笑しくなったようで笑ってくれた。
世間の高校生がどうかなんて知らない。中学生で経験ある奴もいるだろうけど、俺たちはまだ付き合ってもいないのだ。
このペースに我慢して付き合ってくれているのだと思っていたけど、寧ろこれでも早いのかもって思えてしまう。
ゆっくり前に進んでいこうよ。
突然の言葉に、はてって首をを傾げていたが、多分理解してくれたのだろう。
そうね。私たちはこれくらいで丁度いいのかもね。って薄い微笑みで俺の顔を見ている。
顔が真っ赤になる事はもう無いけれど、微笑んでいる佐藤愛子の顔はまだ凝視は出来ない。
「とりあえず今日は他の人のやつ買おうか」
返事を待たずに握った手を離す事なく、レジに向かった。
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