第285話 更なる苦悩
例のテロが起きてから二日、とんでもないことが分かった。テロの首謀者は防衛大臣のレナードだったのだ。
彼の邸宅からテロの計画書やその趣旨をまとめたものが見つかり、さらには遺書のようなものまであったという。筆跡は彼のものと一致し、自身で書いたものであることはほぼ確実だった。
それだけでは誰かが脅して書かせた可能性もあったが、ちょうど護送されてきたソフィと名乗るサラ様のところで何も出来ずに捕まった少女にレナードの名前を出すと明らかに動揺があった。
彼女にレナードは死んだと伝えると、逡巡したのちにレナードの目的、どのようにモンスターを出現させたのかなどをペラペラと喋ってくれた。
もちろんあの時点ではレナードが死んだというのはハッタリだったが、まだ戻ってこないということは本当に死んでしまったのではないだろうか。
彼女の話を聞く限り彼はラムハでオーガを自ら解放したという。マジックアイテムがどうなっているのかはよく分からないが、おそらくオーガは当然彼の近くに出てきたはずだ。報告によればオーガは現れてすぐ周りの建物を壊しはじめたそうなので、逃げるのは難しかっただろう。
「………………はぁ」
やるべきことが多すぎて思わずため息が出てしまう。
まずこのことは内々で処理しなければならない。街に被害をもたらしたテロが防衛大臣によるものだったなど公表できるわけがない。
幸い本人はたとえ生きていても表舞台には出てこないだろうし、彼が首謀者だと指し示す証拠のようなものは彼の邸宅からしか見つかっていない。証拠品さえ押収してしまえばこちらのものだ。
それに今の防衛体制の見直し──これはレナードのテロの目的でもあったが、少なくともラムハはオーガの被害が出た以上、個人に頼らない強固な体制をつくる必要がある。
体制を一新しなければ他国や商人たちからの信用は回復せず、商業都市としての役割を失うだろう。
たしかに今まではレナードからの軍による防衛体制案は現実的ではないと言ってきたが、こうなれば多少無茶でもやるしかないだろう。
レオン様やサラ様のところはとりあえず置いておくとして、どれだけの軍をラムハに移すかを考えなければ。
それに加えてサラ様からの「謎の少女」の保護だ。「魔法は火力」と言われる今、サラ様のみが使えていた個人での最高火力と言われる魔法を使える者が現れた。
一昔前にサラ様が「ゲヘナ」を編みだしたときには、国中の魔法使いがどうにか真似をして使えるようにならないかと躍起になっていたが、結局誰一人使えるようにならなかった。サラ様直々の指導があったとはいえ、あの歳で使えるようになるとは正真正銘の天才だ。
このことが広まる前に何かしら彼女に地位を与えて保護しなければいけないというのは分かる。「ゲヘナ」が使えることが露呈すれば、魔法師団や冒険者パーティへの勧誘は激化するだろう。多少強引な手段に出る輩もきっと出てくる。
Sランク冒険者でもなければその手のものから護ることはできないだろう。Sランク冒険者は国防を担っているため、これに刃向かうことは国に対しての反逆と等しいとなっているからだ。
しかし国防を担うからという理由で安全を担保しているSランク冒険者に国防を担わない彼女がなってもいいのか……反発も起きるだろうし、他のSランク冒険者の地位を揺るがすことにもなりかねない。
ああ、私はどうすればいいのだろう。
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