第283話 贈呈式
贈呈式当日、俺は師匠と二人馬車の中で揺られていた。正面に座っている師匠は目がすでに半分しか開いておらず、とても眠そうだ。きっと緊張でぐっすり眠れなかったのだろう。
未だかつてない緊張で俺も昨晩はあまり寝られなかった。式典にはたくさんの大臣や官僚、そしてもちろん国王陛下も参加されるはず──もし何かヘマでもしたらと思うと気が気でない。
今日の贈呈式に褒賞を受け取る側で参加するのは現Sランク冒険者の三人と俺、そして世間を騒がせている謎の少女だと思われる。
謎の少女はサラさんのところに出た巨大ケルベロスを被害を出すことなく葬ったと言われていて、街中彼女の噂でもちきりだ。
巨大ケルベロスといえばティオール森林に出たものを思い出すが、あれをたった一人で、それも被害ゼロで倒すなど相当な使い手だ。おそらくサラさんのお弟子さんの誰かだと思うのだが、滞在中に俺が一緒に新しい魔法を考えたなかにはいなさそうだ。
被害がなかったということは被害が出る間もなく素早く倒したということ──つまり瞬間火力の高い魔法を使ったことになる。
リサさんは制御が異常に上手かったが、火力がずば抜けていたわけではないし、他の人もケルベロスを一瞬で倒せるほどの火力の高い魔法を使えそうではなかった。
サラさんが使うあの「ゲヘナ」ならば、ケルベロスも一瞬で消し飛ばせるかもしれないが、いくらなんでもサラさんは「謎の少女」としては無理があるだろう。第一、サラさんだったら謎でもなんでもない。
だからきっと謎の少女の正体は俺とは面識がある程度のお弟子さんなのだろう。どの人なのか答え合わせのようで楽しみだ。
王宮の前まで来ると馬車は停まり、たくさんの護衛の人に囲まれながら中に入る。案内されるままに迷路のような建物の中を進んでいくと、まず水浴び場に通される。
体を洗って言われたとおり下着だけを身に着けて水浴び場を出ると、たくさんの人がいろんな服を持ってきて、俺の体の前で合わせてみてはあれやこれやと議論を始める。
独特の空気に呑まれてしまいそうで、助けを求めるように師匠の方を見ると、すました顔で人形のように服を着せられていた。なるほど式に出席にするのも初めてではないのだから慣れているのか。俺もSランク冒険者になるのだから、たくさん式典に出ていつか慣れるんだろうか。
そうしてされるがままに身支度を終え、今度は式典が始まるのを待つ控え室に案内される。控え室の扉を開けるとそこにはレオンさん、サラさん──そして俺たち同様に着飾ったアドレアがいた。
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