第279話 謎の少女

 どうやってかは分からないが巨大なケルベロスを出した女の子を捕まえると、街の人が後ろ手に縛り上げる。見れば戦意を喪失しているようで、ボクと目が合うとガタガタと震えだす。


 ケルベロスの巨躯を一瞬で骨だけに変えてしまう魔法、「ゲヘナ」。ボクがサラさんから教えてもらった魔法──そして現存する炎系統の魔法の中ではおそらく最も威力の高い魔法。


 まだ形になっただけでサラさんのように使いこなせてはいないが、それでも他に比べれば威力は桁違いだ。初めて見たら驚くのも無理はない。


 サラさんには人前では使わないように言われていたが、今回ばかりは仕方ないだろう。ゲヘナじゃなかったらきっと被害が出ていた。


 縛ったのはいいがどうしたものかと街の人と話しているとサラさんがやってくる。


 事情を説明するとサラさんがテキパキとそこにいた人や一緒にきた道場のみんなに指示を出していき、あっという間にさきほどの子はどこかに連れていかれた。


「いいかい? みんなアドレアの使った魔法については他言無用だよ。魔法の情報は魔法使いの命だからね、ケルベロスを倒した彼女に感謝の気持ちが少しでもあるなら守ってほしいさね」


 最後に街の人々にサラさんはそう言って釘を刺していた。


 ボクは何事もなかったかのようにその後道場でサラさんとゲヘナの練習をして、魔法学校へと戻った。




 ボクがケルベロスを倒した次の日、学校は噂で持ち切りだった。


「昨日Sランク冒険者のいる三つの街に巨大なモンスターがいきなり出たんだって」

「聞いた聞いた。特にラムハではあのオーガが巨大化したのが出たんだってな。しかも倒したのはあのコルネ! Aランク昇格といい大活躍だよな」

「えっ、そうなの!? なんだかもう遠い人みたいだね……今年も来てくれるのかな」


 ボクは聞こえてきた会話に驚く。それぞれの街でモンスターが出たのは知っていたが、倒したのがコルネだったとは。コルネは大活躍だなあ──今回はボクもちょっとだけ負けてないけど。


 水筒の蓋を開け、気にしていない素振りを見せながら隣で行われている会話に耳を立てる。


「そっちもすごいけど、やっぱり今回一番の目玉は謎の少女! サラ様のところに出た巨大ケルベロスを一瞬で葬ったんだって、それもたった一人で!」


 それを聞いた途端、ボクは飲んでいた水で咽てしまう。知らないところでボクのことがすごい噂になっている。謎の少女って……!


 ゲホゲホと咳き込んでいると、話していた二人が心配してくれる。


「アドレア、大丈夫? あ、そういえばアドレアは前にサラ様の道場行ったことあるよね。謎の少女って、きっとあそこの道場の誰かだろうけど──もしかして誰だか目星がついてたりして?」

「いや、全然。女子はたくさんいたし、みんな強かったからさ」

「たしかに……それもそっか。あそこに入れるってことは強力な魔法を使えて当然よね」


 うまく誤魔化せたようだ。それにしても謎の少女って……ちょっとかっこいいかも。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る