第153話 緊急クエスト
練習用の剣の扱いにも慣れてきたある日、ヴィレアの冒険者ギルドの扉を開けるといつもと違う空気が流れていた。
暗い表情をしている者が七割、覚悟を決めた者が三割といった様子で、皆どこかピリピリしているようだ。明らかに何かあったことが見て取れる。
何があったのかとギルドの中を見渡すと、クエスト掲示板の中央に貼られた大きな貼り紙が目に留まる。過去に一度しか見たことがないが、あれはおそらく──緊急クエスト。
緊急クエストは、その名の通り緊急時に出るクエストで、通常のクエストに比べて適正ランクも危険度も桁違いだ。
近づいて内容を詳しく見ようと扉の前を離れようとすると、俺を見つけた仲のいい冒険者が説明してくれる。
「オーガが出たんだ……今、偵察隊の帰りを待ってるところで」
オーガは巨躯をもつ、角の生えた人型のモンスターだ。気性が荒く、高い戦闘力を持つことからその討伐クエストの適正ランクはAに位置づけられているはずだ。
Aランクというのは、Sランクの三人を除いた冒険者の中で最高のランクであり、当然このギルドにそんな実力のあるパーティは存在しない。
そもそもAランクパーティはそんなに多くない。ランクが上がっていくほどパーティ数は少なくなっていくのは当然だが、おそらくAランクともなるとどれだけ多く見積もっても三十か四十ほどだろう。噂ではAランクはBランクの二十分の一か三十分の一しかいないと言われている。
これはBランクパーティからAランクパーティに上がることが難しいことに起因している。
討伐クエストの相当ランクにAより上はない。つまり、同じAに相当する討伐クエストの対象になるモンスターの中でも強いものと弱いものの差がある。
Aランクパーティになればどのクエストでも受けることが出来るため、その中でも強いものと戦って勝てるほどの実力がないとAランクとは認められない。無駄死にを防ぐためだ。
そうすると必然的にAランクパーティの数は減ってしまうが、Aランク相当のモンスターの生息地は限られているので、現状では対応が間に合っているらしい。
だからこそ、ここヴィレアに突然Aランク相当のオーガが出現したのは異例のことなのだ。
普段、ヴィレアの冒険者ギルドで出る討伐クエストはBランク相当のものが上限だ。Bランクの討伐クエストに載るモンスターは何種類かいるが、いずれも気性の穏やかなものを素材用に狩っているのにすぎない。
彼らが人里にはほとんど下りてこない──つまり狩らなくても支障が出ないものを、俺のような物好きな冒険者が狩っていくくらいのものだ。
俺の他にもここを拠点にしているBランクパーティが二つくらいあるのは知っているが……Aランクのオーガに対してBランクパーティ三つで挑むのはあまり現実的ではない。
十や二十あるならまだしも、たった三つではおそらく無理だ。そのうえ、俺は集団戦闘には向いていないから三つよりも戦力は下だ。
師匠を呼んでくればおそらく全て解決するが、師匠を呼びに行っている間にオーガが村を襲う可能性もある。帰ってきたらギルドも村も壊滅状態でした、では意味がない。
それに師匠は基本的に事前に報告するか国からの要請がないとラムハを離れられないと言っていた。緊急事態のため、これに関してはどうにかなるとしても、ここで師匠を呼びに行くと俺という戦力が減り、リスクが高くなる。
これはどうするべきか……少し考え、俺は答えを出す。
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