第125話 演出
久しぶりの師匠との修行で汗を流した後、晩御飯を食べながら里帰りの話をする。
「──で、孤児院のみんなに魔法剣を見せたんですよ。即席ではあったんですが、子どもたちが喜んでくれたのでよかったです」
「もしかしたら孤児院から新たな魔法剣士が生まれるかもしれないね」
俺が話してばかりだが、パンをちぎりながら相槌を打つ師匠は嬉しそうだ。
「それで、そこで使った演出が収穫祭のステージでも使えるかな、と思うんですけど」
俺の言葉にキョトンとする師匠。まるで俺が何を言っているのか分かっていないような反応だ。
「コルネくん、演出って……何だい?」
「「えっ」」
「…………えっ?」
師匠の言葉に、静かに俺たちの会話を聞いていたヘルガさんまでが驚く。なぜ二人が驚いているのか分からずに戸惑う師匠。
何か分かったのか、ハッとした顔でヘルガさんが師匠に訊く。
「ロンド様、毎年私は留守番だったので分からないのですが、一昨年までのステージはどのようなものだったのでしょう」
「ん? 毎年、炎の魔法剣を見せてるよ」
「……見せる、というのはどのようにですか?」
「どのように、って訊かれても──何回かモンスターを斬るように剣を振り下ろしたり、横に薙いでみたりかなぁ」
何回かだけ!? それだけしか見せないのか──まあ同じ動きを何回も見せられても飽きてしまうから、それくらいがちょうどよいのかもしれないが。
こめかみを押さえながら、はぁ、と深くため息をつくヘルガさん。
「ロンド様、それはあんまりです。それでは魔法剣の魅力が伝わりきりません。逆にどうしてそのパフォーマンスになったのですか?」
「僕、自分で魔法剣を使ってるときも見惚れちゃうくらい炎の魔法剣が好きで、いつまでも眺めてられるから、みんなも好きかなぁと思って……」
少し照れながら言う師匠。炎の魔法剣は綺麗だから永遠に見ていられるほど俺も好きだし、孤児院の子どもたちも好きと言っていたから、多くの人に好まれるだろうが……
「他の人はいつまでも、とはいかないかもしれませんし、実際に使っている人と見る人では見え方も違います。それにお祭りにいつも来ている人は、たまには違うものが見たいでしょう。今年はコルネくんに演出を任せるのはどうでしょう?」
そう言って俺に目配せをするヘルガさん。たしかに毎年師匠がやっていたのよりは、まだ俺が孤児院でやった方が楽しめるんじゃないだろうか。
「そうだね。子どもたちが喜んでくれたのなら、お祭りに来た人もきっと喜んでくれるよね。コルネくん、よろしく頼むよ」
* * *
(道理でお祭りの後にステージの話をすると毎年、微妙な反応が帰ってくるわけです。てっきり見飽きたからかと思っていたのですが、違う理由だったとは……頼みましたよ、コルネくん。)
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