第100話 レオンの剣術道場 其の十一
ガクンと首を垂らし、座り込むヨーゼフさん。どうすればいいのか分からず、それを見つめるしかない俺と友人。ここに地獄のような空間が完成する。
部屋の外で話しているため、ヨーゼフさんのルームメイトからの救援は期待できない。
「なんというか……ごめんなさい」
「いや、俺が勝手に期待して勝手に裏切られただけですから……」
ハハッと乾いた笑いがヨーゼフさんの口から洩れる。
一体どうすればこの地獄を抜け出せるのか考えていると、隣の友人が小声でボソリ、と漏らす。
「なるほど、こういう倒し方もあるのか……」
「いや、倒してないから。というか何かこの場を切り抜ける策を考えてくれ」
思わず小声でツッコミを入れてしまう俺。その口ぶりだと他の弟子を倒すと上のグループに行けるシステムでもあるのだろうか。
「じゃあ、その魔力操作ってやつをヨーゼフさんに教えれば解決じゃね? よく分からんけど、ヨーゼフさんは例の動きをしたかったんだろ」
なるほど──ヨーゼフさんの反応から体術としてあの動きを習得したかったのは明らかだが、結果として同じ動きができてしまえば、それが体術だろうか魔力操作だろうが問題ないのか?
問題ないとして、ヨーゼフさんは魔力操作を習得できるだろうか。
たしか魔力操作を師匠から習ったとき、「普段から魔法を使っている人なら出来る」と師匠から聞いたはずだ。それは裏を返せば、普段から魔法を使っていない人だとできない可能性があるということだ。
もし、教えて習得できなかったときは、さらなる地獄が待ち受けているだろう。
俺自身が教えられるほど完璧に魔力操作を扱えていないし、習得できるかどうかはやってみないと分からない。
しかし! 今ここでこの提案をすればとりあえずこの場は乗り切れる!
俺は後のことは考えないことにした。
「ヨーゼフさん、もしよかったら魔力操作を教えますので……どうでしょうか?」
「それであの動きは出来るようになるのでしょうか?」
「習得できれば……出来るようになると思います」
「そうですか……」
悩み始めるヨーゼフさん。やはり聞きなれない「魔力操作」というものに挑戦することには抵抗があるのだろうか。
「うーん…………でもそれをしてしまうと私のアイデンティティが……でも出来れば強力な武器に……いや、まだ出来ると決まったわけではない──出来なければ俺は全て失って…………」
ヨーゼフさんは想像していた十倍くらい悩んでいた。時折聞こえるブツブツと呟く呪詛のような低い声に、友人はちょっと引いているようだった。
「是非……よろしくお願いします」
葛藤の末、苦虫を噛み潰したような表情でヨーゼフさんが答える。魔力操作を習うかどうかであれだけ悩んで……何か複雑な過去があるのだろうか。
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