第56話 ケルベロス討伐を終えて

 ケルベロスを倒した後、濡れねずみになった俺と師匠は倒れるケルベロスの血を浴びたので、もう一度びしょ濡れになってから火で体を温める羽目になった。


 今は特段寒い時期ではないが、やはり濡れた服を着たままだと冷えるため、服を脱いで二人で焚き火にあたっている。


 脱いだ服は絞ってから丈夫そうな枝にかけて、師匠が焚き火の前に座ったまま風の魔法を飛ばして乾かしている。水をぶちまけたお詫びだそうだ。


 戦いで消耗した師匠に魔法を使わせるのは申し訳ないので、自分の服くらい自分で乾かせると言ったのだが、一人分も二人分も一緒だと言われて持っていかれてしまった。


 何気に師匠の体を見るのは初めてなのだが、服の上から想像していたよりも筋肉がついていて驚いた。決して筋骨隆々というわけではないが、発達した腕や胸の筋肉は戦闘慣れした者のしなやかなそれだった。


 今まで師匠のことを痩せ型だと思っていたが、これは認識を改める必要がありそうだ。


「コルネくん、あれどうしよっか」


 乾かしている服の方に顔を向けたまま、師匠が俺に訊いてくる。通常、モンスターを討伐したときは討伐証明に必要な部位と有用な部分だけを持って帰る。


 ケルベロスは討伐クエストに入ることがほとんどないので、証明に必要な部位は分からないが、毛皮は有用そうだ。有用そうなのだが──


「毛皮はよさげなんだけど少ししか持って帰れないよねぇ」

「そうですよねぇ」


 あの巨体から想像するに毛皮自体がかなり重いだろう。毛皮はある程度の大きさがないと加工が難しいため、苦労して持って帰っても意味があるかどうか……


 二人で考えこんでいると、服が乾いたと師匠が告げる。からっとしていて心地よい肌触りだ。森に入ってから服は洗えていなかったからこれは嬉しい。


 いそいそと服を着ていると突然頭の中で声が鳴り響く。


「このモンスターを持って帰りたいのですか?」


 可愛らしい少女の声だが、舌っ足らずではなくどこか大人びた印象を受ける。


 師匠と怪訝な顔をしていると、ふわふわと先ほどのドライアドがやってくる。羽で飛んでいるわけでもないのにどうやって移動しているんだろう──やはり風の魔法だろうか。


「ケルベロスを討伐していただいてありがとうございました」


 そう言ってぺこりと可愛らしくおじぎをするドライアド。つられて二人でおじぎをする。この頭にやたらと響く声は何なのだろうか。


「あれを持って帰りたいのでしたら、森の外まで飛ばしましょうか。森にとっても邪魔なので、私としても持って帰っていただいた方が助かります」

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