第48話 宿屋にて 其の二
僕たちを殺しに来た男は結局、縛って別の部屋に隠すことにした。森に入った後に村人を引き連れて報復にやってくる可能性を考えれば、その場で殺してしまった方がいいかとも思ったのだがやめておいた。
殺してしまえば、血の臭いでコルネくんに気取られる可能性がある。だから血だまりを拭き取った後に上からお酒を撒いておいたし、ざっくりいった腕の傷も丁寧に傷口を焼いて止血しておいた。
それに、あえて手を出さなくてもこのまま他の村人に見つけてもらえなければ死ぬ。我ながら随分と恩情をかけたものだ。
宿屋の受付の裏には他の冒険者から奪ったであろう使い込まれた剣や杖が何本も置かれていた。中には価値の高そうなものもいくつかあり、譲ってもらったものではないことを示していた。今まで奪った命に比べれば、当然の報いだ。
* * *
薄暗い部屋の中、目が覚める。明け方の青黒いうすあかりが部屋を満たしている。
こんなに早く起きたのは久しぶりだ。昨日、いつもより早く寝たこととベッドが硬かったことが原因か。
昔はこれとほとんど変わらないくらいの宿屋で寝泊まりしていたのに、慣れとは怖いものだ。
宿屋といえばみんな元気にしてるかな。アドレアにエミルにマリー──今頃どうしてるかな。エミルは実家と領主様との関係上、実家に帰りづらいだろうしどこか違う場所にいるのかも。
マリーは違うパーティで楽しくやってるのか──それとも実家のパン屋を手伝っているのかもしれない。
アドレアは──正直分からない。孤児院に戻って世話になるわけにはいかないだろうし、他のパーティにいるのかもしれない。でも魔法のことになると、すぐに周りが見えなくなるからちゃんとやっていけてるかな。
ふと、部屋を見渡すと、暗くてよく見えないが、入り口のあたりに何かあるような気がする。
師匠を起こさないようにゆっくりと体勢を変え、靴を履く。そろりそろりと音を立てないとように歩くが、床の状態がよくないのか、わずかにギシギシと音が鳴ってしまう。
それでもこんなに静かでなければ気付かない程度だ。扉に近づくとぼんやりと見えていた何かがだんだんはっきりと見えてくる。これは──染み?
「おはよう、コルネくん」
背後から突然、師匠の声がして心臓が飛び出そうになった。振り返ると、ベッドの上で上体を起こした師匠がこちらを見ていた。どうやら足音で起こしてしまったみたいだ。
「師匠、この染みは──」
「ああ、それは昨日僕がお酒をこぼしてしまってね。眠れなかったから少し飲んだんだ」
ならなぜ扉の近くに染みがあるんだろう。普通なら椅子に座って飲むはずだ──あ、酔っぱらってお酒を持ったままドアを開けようとしてこぼしてしまった、とか?
もう、師匠ったらおっちょこちょいだなあ。なぜドアを開けようとしたのかは分からないが、酔っぱらったら意味の分からない行動を取ることはあるしな。
その話だと師匠は酒癖悪そうだから家で飲もうとしてたらなるべく止めよう。
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