第12話 サラの訪問 其の三

 光の魔法の感覚は掴めたので、毒の魔法を練習することになった。サラさんは明日予定があってすぐ帰らないといけないらしい。


 ルカくんからコツを聞くと特にないと言われてしまい焦ったが、「ルカくんにとって毒とは?」「毒って美味しくないと思う?」「毒って浴びたら皮膚が溶けそう?」などと質問を繰り返し、どうにかイメージが固まりはじめた。


 色んな「毒」を思い浮かべながら発動させた。毒のある植物、孤児院でたまに見た死ぬほどではないが毒のある蛇、討伐クエストの道程で見つけた毒キノコ……その中で他のものよりも発動しそうなものがあった。


 俺が七歳くらいのとき、孤児院の家計はすでに苦しかった。その中でも、少しずつ使っていた寄付金が底をつきそうになっていた時期は大変だった。


 いつも多くはない食事の量が少しずつ減っていった。小さい子がお腹が空いたと喚いたりはしたが、他は誰も文句は言わなかった。


 みんなシスターのため息が増えていたのを知っていたし、大好きなシスターを困らせたくなかった。途中で俺は空腹の限界を迎え、常に何か食べるものはないかと探すようになった。


 しかし、食べるものなどあればとっくに食べている。近くの山の木の実なども食べ尽くして近所の家を回って少しずつ食べ物を分けてもらっていたのだから。


 ある日、俺はいつも遊んでいる草っ原の端の大きな木にキノコが生えているのを見つけた。


 シスターに常々生えているキノコを勝手に食べてはいけませんと言われていたが、見つけたキノコは以前食べた美味しいキノコによく似ていた。焼いて食べたキノコの味を思い出したら涎が止まらなくなって、気付いたときには食べてしまっていた。


 味は以前ほどではなかったが、空腹も相まってとても美味しく感じられた。が、そこからは地獄で俺は激しい下痢、発熱、手足のしびれなどに襲われた。


 後で聞いたことだが、あのキノコとは別の種類のキノコで間違える人は少なくないらしい。


 そのキノコの味を思い出しながら魔法を使うと体調が悪くなった。これは毒の魔法が使えるということだということで、後はサラさんたちが帰った後に練習することにした。


 そろそろ帰る時間になりそうな頃、サラさんが大きな帽子を直しながら言った。


「私はいつでも来られる訳じゃないからねぇ。せっかくだから私のとっておきをみせてあげるさね」


 目を閉じ、深呼吸をするサラさん。よほどの集中力を必要とする魔法なのか。


 数度深呼吸をした後に、瞼を開ける。そこにあったサラさんの瞳は先ほどまでとは違い、虚ろだった。


「ゲヘナ」


 突然、裏庭の中央に巨大な炎が昇った。小さな家ならすっぽり覆われるほどの大きさの炎が静かに燃えている。きれいな青い炎だ。


 静かに燃えているのとは裏腹に、炎からかなり離れている俺にも相当な熱さが伝わってくる。もしこれに焼かれたらと考えるとぞっとする。骨すら残らないのではないか。


 やがて炎は消え、みな言葉を失い立ち尽くしていた。ルカくんは顔面蒼白だし、師匠も目を見開いている。


「じゃあ帰ろうかねぇ」


 サラさんの声で時間が動き始めた。ルカくんはぎこちない動きでサラさんと馬車に乗り、俺は師匠と一緒に二人を見送った。

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