第1話 新たな道

 次の日から俺は素振りや筋トレなどの剣士としての基礎練習をして、残った時間は魔法の練習をした。


 そしてギルドが空く昼過ぎに受付嬢のベティさんにパーティの様子を聞きに行っていた。


 しかし、いくら待てども様子はそのままらしく、残った二人も精神的に参ってきているらしい。


 おまけにパーティメンバーの募集まで始めてしまってジャンは残る気満々だということだ。確かに今のままでは討伐は厳しいというのは分かるが、ずっと同じ面子でやってきた身としては複雑な気分だ。


 募集の話になったときにマリーは反論したらしいが、エミルは立場上強く言えず結局する流れに至ったそうな。




「私、もう無理。パーティ抜ける」


 パーティを抜けてから十日が過ぎようとした頃、マリーから宿屋に伝言があった。俺がいない間に、これだけ言って帰ったそうだ。


 ギルドに詳しい事情を聞きに行くと、マリーがもう限界だと言ってパーティを抜けて、エミルも一人はさすがに無理だと言ってパーティを抜けたらしい。


 ジャンが止めようとしたらしいが、マリーの顔を見て動けなくなってしまったとか。


 そういえばマリーは怒ると普段から想像できないくらい顔が怖くなるんだった。まるでオーガみたいに。


 パーティは解散になったらしいが、これからどうしようか。五年間組んでいたパーティがなくなるのは名残惜しいが、正直なところ、また同じメンバーで組みなおせばいいかと思っている。


 しかし、仮に組みなおすとしても今は無理だ。ジャンをパーティに一人置いてきた訳だし。


 しばらくは一人で行動することになるな。




 言伝を聞いた後、宿屋の食堂で夕食をとっていると、掲示板にあるチラシの一枚が目に入った。


「『魔法剣道場で君も最強の魔法剣士になろう!』……か」


 この手のチラシは腐るほどある。騎士になろうだとか盾使いになろうだとか。ただ魔法剣士の勧誘は珍しく、少し気になった。


 魔法剣士は数が少ない。それは育成の場がないからだ。


 数が少ないから一人あたりの育成費用が高くなってしまう。だから育成する場所が作れない。場所がないから数は増えない。このループに陥ってしまっている。


 ではこのチラシの道場は誰が作ったのだろうか。チラシを見ていると信じられない名前が目にとまった。


「ロンド!? あのSランク冒険者のロンドさん?」


 冒険者のパーティはギルドが定めたFからAのランクに分けられる。しかしたった一人でもAランクパーティより強い、規格外が三人存在する。


 剣士のレオン、魔法使いのサラ、魔法剣士のロンド。彼らは俗にSランク冒険者と呼ばれている。


 そもそも俺が魔法剣士になったのは、ロンドさんに憧れたからだ。俺がいた孤児院に立ち寄ったロンドさんは剣に魔法を纏わせて見せてくれた。俺はその輝きが忘れられない。


 パーティを抜けて自由に行動できるようになった今、このチラシを見つけた。ずっと憧れ続けている冒険者ロンドの開く道場。これは運命かもしれない。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る