24話「どこ変わったでしょう」
月曜日。
日曜日には家出していたくるみも家に帰り、その後まったり家事をしたり休んだりしたのちに迎えた平日の放課後。
いつものようにくるみが家に訪れ、2人並んで課題をやっていた。
「綾人、ここわからない」
「わかったわかった。教えるからそんなに頭近づけないでいいから」
「…………」
「なんで押し付けてくるのさ……」
妙に頭を僕に近づけてくるくるみに困惑しながらも、ぐい、と頭を押して距離を取らせる。
くるみはそれに不服そうな態度を見せるが、何故そうなってるのか分かるわけもないので、気にせずにくるみがわからないと言った問題の解説をしようと課題のプリントを見て……ため息を吐く。
『問題。くるみちゃんの変わったところはどこでしょう。全て答えよ』
と、手書きでプリントの空きスペースに書かれていた。
「ほら、答えをどうぞ?」
「……課題にこんなの書いちゃダメだろ。ほら、消すぞー」
「ああっ、ダメ! 消すなら答えてから……あぁ……」
容赦なく問題文を消したところ、見るからに落胆するくるみ。
……僕がそんな問題に素直に答えるわけないだろ? どこ変わったか聞かれてもわからないし、かと言って適当に答えても機嫌が悪くなるだけなのだ。
それならば、はぐらかして答えないのが最適解だろう。
「……綾人、問題です。わたしが昨日と変わったところはどこ?」
「ほら、課題するよ」
「ど、こ?」
いつにも増して推しが強いくるみに白旗をあげた僕は、「わかったわかった」と言って、くるみの体を上から下まで見る。
幼馴染の威信をかけて、僕が出した結論は……
「いや、わからん」
「は?」
目のハイライトを消したくるみが、げし、と僕の脛に蹴りを入れてくる。
いや、言い訳をさせて欲しい。小さい頃からよく知っている相手だと、逆に些細な変化が判別しづらいのだ。いろんな姿を知っているので、変わったところがわかりにくくなる。
「わ、悪かったから落ち着いてって……」
「乙女のくるみちゃんの心は傷つきました。あーあ。これは綾人に正解を答えてくれないと落ち着きません」
「えぇ……わかんないものはわかんないしなぁ……」
わかりたい気持ちは山々なのだが、何しろ僕には観察眼というものがない。
今だって必死に頭を悩ませているものの、特段変化といった変化は見つからない。
なので僕は……勘で答えることにした。
「あー……少しだけ化粧してる……とか?」
「してない。化粧とかよくわからないのですっぴんのくるみちゃんです。
……次ラストチャンスね」
「…………髪切った?」
「切ってないわ馬鹿」
げし、げし、と連続で蹴りを入れてくるくるみ。
痛い痛い。脛蹴られるの痛いから!
「正解は、シャンプー変えたでした!!気づけよ馬鹿!」
「知るか! 『変わったところは?』って聞かれたら見た目の変化だと思うじゃん!」
「それは綾人が先入観に囚われてただけ。せっかく匂い嗅ぎやすいように髪を綾人の顔に近づけてたのに気づかないし!」
「いやね、悪かったとは思ってるんだよ? でもほら、気づかないものは仕方ないと思わない?
ち、ちなみに、何でシャンプー変えたの?」
「……友達が、このシャンプー使うと男が獣みたいになるって言ってた」
「僕何も変わってないけど」
「嘘つかれた……いや、嘘にしなければいいのか」
「あ、嫌な予感」
「今から綾人とエッチなことすれば、現実になるじゃん!」
「やっぱりそう言うと思ったよ!!」
あまりにも想像通りの発言に、思わず大声を出してしまう。
……最近、くるみの思考が読めるようになってきた。とても残念だけれど。
「ほらくるみ、馬鹿なこと言ってないで課題やろうよ」
「誤魔化さないの! 匂いに気づかなかったくせに!」
「もしかして、気づかなかったこと永遠に言われ続けるやつ?」
「当たり前じゃん。
……っていうか、綾人から匂いの感想もらってない!
ほら綾人、わたしの髪を嗅ぐんだ。そして匂いの感想を……」
「わかったからそんなに押し付けるんじゃない」
ぐりぐりと顔に頭を押し付けてくるくるみ。
僕は一度くるみを引き剥がすと改めて、すん、と匂いを嗅いでみる。
うーん、これは……
「……くるみの匂いがする」
「なにそれ」
「くるみの匂いはくるみの匂いだよ」
「シャンプーでも柔軟剤でもなく?」
「あー、どうなんだろ。実は柔軟剤の香りだったりするのかな……でも樹くんからは別の匂いするし、くるみがシャンプー変えても匂い変わらないところ見ると、やっぱりこれはくるみの匂いなのかな」
「わたしの匂い……? え、もしかしてわたし汗臭い?」
「いや、そういうわけじゃないよ。嫌な匂いではない……というか、むしろ落ち着くし」
「そ、そう……」
そういうと、顔を真っ赤にしてそっぽを向くくるみ。
あれ? もしかして照れた?
「くるみ? 照れてる?」
「うるさい……」
「くるみ、いい匂いだぜ」
「っ!! うるさいっ!」
「ぐへっ……」
ふざけて出来る限りイケメンっぽい声を出してみたところ、顔を真っ赤にしたくるみから腹に拳をもらったのだった。
……からかいすぎたか。
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