16話「一緒に寝よう」



 結局、僕が目覚めた時には1時間半経過してしまっていて、起きた僕はとりあえずくるみに謝った。

 くるみは「そんなに気持ちよかったんだぁ?」とからかってきたけど、その通りなので頷いておいた。

 ちょっと低気圧のせいで頭痛がしていて、昨日の夜寝付けなかったのも原因の一つなのだろうけど、そう言って心配されるのも嫌なのでそれは黙っておいた。


 そして、順番に風呂に入って、あとは寝るだけ。

 いつものようにベッドはくるみに譲って、僕はその下に布団を敷いて寝る。

 寝れる部屋は僕の寝室くらいしかないので、仕方ない。

 一応父の部屋のベッドも空いてはいるけど、あの部屋には謎のこけしとか得体の知れない埴輪とか置いてあって不気味で入りたくない。寝るなんてもってのほか。

 というわけで、いつも通り敷布団を出して床に広げていると、ベッドに腰掛けているくるみが話しかけてきた。


「ねぇ、今日は一緒に寝ない?」

「ん? いつも一緒に寝てるじゃん」

「そうじゃなくて、一緒のベッドで寝よって話」

「……なぜ?」

「ほら、いっつも綾人床で寝ててこっちが申し訳なってくるし。せっかくセミダブルのベッドなんだから二人で寝よ?」

「セミダブルっていっても二人じゃ狭いでしょ……」

「いいから! 寝るの!」

「わかったわかった! 引っ張らないで!」


 ぐいぐいと引っ張られて腕が抜けそうになったのでそう要求すると、くるみはすんなり手を離してくれる。

 でもこれあれだな。やっぱり下で寝るとか言い出したらまた引っ張られるな。


 僕は一つため息を吐いて諦めると、くるみを奥に詰めさせて僕もベッドに寝る。

 ……やば、意外と狭い。暑くなってきてるから二人とも半袖で、肌と肌が触れ合ってドキッとさせられる。


「ねぇ、狭くない? やっぱり僕下で……」

「ダメ。このまま綾人とエッチなことするんだから。ほら、かもーん?」

「……一人で寝る」

「わー、冗談だから! いや、半分くらいは本音だったけど、そこまで本気じゃないから!

 綾人、わたしがそばにいると安眠できるみたいだし、一緒に寝てあげようかって思っただけ。さっきも熟睡してたし」


 ……実を言うと、あまり否定できない。

 くるみと密着するとドキドキするが、それと同じくらい安心もするのだ。

 この匂い落ち着く。同じシャンプー使ってるはずなのになんで匂い違うんだろう?


 ……僕はため息を吐くと、枕に頭を乗せて寝る準備をする。

 くるみは枕の位置を調整した後、こっちを見てこくりと頷く。

 いつものようにリモコンで部屋の電気を消して、ふぅ、と息を吐く。

 すると、くるみがつんつんと僕の腕をつついてくる。


「ん?」

「腕片方貸して」

「いいけど……なんで?」

「こうする」


 僕の左腕を動かして、くるみはそこに頭を乗せる。俗にいう腕枕というやつだ。

 ……いや、さすがに恥ずかしいんだけど。


「くるみ……」

「さっき膝枕してあげた」

「ぐぬぬ」


 1時間半も爆睡した以上、それを言われると痛い。

 仕方ない。左腕の痺れくらいは甘んじて受け入れよう。

 

 そう思って寝ようと目を閉じると、くるみがふふっ、と笑う声が聞こえてきた。


「ん?」

「なんでもないよ」


 くるみはそう言うと、僕の腕に頬をすりすりとした後に、完全に体重を預けてくる。

 ……ちくしょう、気持ちよさそうにしやがって。かわいいな。

 しばらくそうしていると、すぅ、すぅとくるみが寝息を立て始めた。

 僕は自由な右腕を上げて、くるみのサラサラな髪の毛を撫でる。


 ……かわいいなちくしょう。


 僕は別に、くるみに魅力がないとは思っていない。むしろ魅力的だ思っている。だからこそ誘惑に耐えるのに神経をすり減らしているのだ。

 今だってわりと耐えている。さすがに同じベッドで寝て平気というわけがない。

 でも、僕は意地でも耐え切ってやる。


「ほんと、何がしたいのやら」


 くるみは変な子だ。何考えてるかわからないし、考えてるのかすらわからない。

 でも、そこもくるみらしさだと思っているから、ツッコミは入れるけど直させようとしたりはしてこなかった。

 ……まさか、こんな誘惑してくるようになるとは思ってなかったけど。


「……おやすみ、くるみ」


 考えるのも面倒くさくなった僕は、くるみの頭をもう一度撫でた後、ゆっくりと目を閉じた。

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