第3話 人間不信のラスボス
ラスボスが去った後、これからどうしようかと思っていると、何かが檻の前にやってきた。
狼男だ。
魔族の男で、モブのキャラ。
でも、ちょくちょくストーリーに絡んでくるので、知っている顔だった。
「ぶっちゃけお前に長々といすわれたら、面倒なんだ。さっさと出て行ってくれ」
そいつは出会うなり、そう言ってきた。
率直だ。
主人が主人なら、部下も部下。
そういえば、ラスボスの部下の狼男である彼は、歯に衣を着せない言動が売りだった。
何でも思った事を口に出してしまう人物として描かれている。
基本的に奔放な所が多い魔族を束ねている、すごく有能な人物なんでけど、それゆえに苦労症。
胃薬が手放せないと、説明書のキャラ紹介に書いてあった。可哀そう。
「おい、そんな目で俺を見るな」
失礼。
狼男は、どこからか取り出した筆で儀式用の魔方陣をその辺に書き始めた。
「これから、お前に呪いをかける。それが終わったら、もう帰っていいぞ」
「ありがとうございます」
「そこはお礼じゃなくて、身構えたり恐怖するところだろ」
いやだって、貴方の主人が本当は良い人だって知ってるし。
乙女ゲームの攻略キャラになるくらいなのだから。
「普通に貴方達のご主人様は優しいなという感想しか浮かんできません」
「こいつ馬鹿なのか? うん、馬鹿なんだろうな。そう思っておこう」
殺されなかった時点で、もう大丈夫な事分かってるようなもんだ。
呪いをやぶったら、死んでしまうというデメリットがあるけれど、それはラスボスの事情を考えたら普通の対処だと思う。不当な扱いをされたわけでもないのに、怖がれといわれても困る。
この場にいない彼。魔族のトップであるラスボスは、幼いころ人間に迫害されて、人間不信になっている。
それは、第三者でも自分の情報を、居場所や名前などを知られたくないくらい。
その必要がなかったら、ずっと人と話さないくらいだし。
それなのに、私のような人間に優しくしてくれるのだ。だから、きっと大丈夫だと思う。
それから数分後。
無事に?呪いをかけられた私は晴れて解放された。
「また来ても良いですか?」
「もう来るな」
もうちょっとしたら、原作が始まって出会えると思うので、しばらくの間さよならですね。
魔王城の窓から外を眺めていた俺は、眉をひそめていた。
ついさっき会った人間の女、檻の中に入れられたというのに、悲鳴一つあげやしない。
しかも魔族を見て、まったく怖がらない。そんな人間は初めてだった。
人間は得体のしれない物を見ると、恐怖して、予期せぬ行動をとる。
そんな奴等ばかりだと思っていた。
けれど。
「あの人間は、魔王様を見ても怖がらなかった。俺の事も。変わった人間でしたよ」
そんな俺に話しかけてくるのは部下だ。
「そうだな」
「あんな人間がいれば、魔王様だって少しは他の物を信用できるのでは」
「やめろ。その話はしたくない」
「はっ、申し訳ありません」
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