第17話 かどわかし(3)天狗の住処
「ここか、天狗の住処ってのは」
辺りをグルリと観察する。
山の奥深く、小さいながらも集落のような所があった。
だが、普通の村と違うのは、周囲を崖と高い柵に囲まれている所だ。
そんな天狗の住処を見て、疾風達は胸がザワザワするのを感じていた。
久磨川の里と、同じような臭いがした。よそ者を入れない、内部の者を出さないという、強固な意志の臭いだ。
久磨川の里も、切り立った崖とごうごうと流れる川、手をかけて登れないように刃物などを打ち込んだ高い塀に囲まれており、勝手に出入りはできなかった。訓練は里の中以外にも山の中でも行われるが、監視があって、逃げ出せないし、外の者も近寄れない。念のために、周囲に深い落とし穴まで掘ってあるのである。
「ここ、どこかの忍びの里?」
八雲も緊張したような声を出す。
「その割に、周囲の監視が甘くない?」
狭霧が怪訝な表情を浮かべる。ここへ来るまで、鳴子も見張りも見当たらなかったのだ。
「あの門の前後にも、落とし穴の類は無さそうだしな」
疾風も首を捻る。
「単に、人目を忍ぶだけかしらね」
「だったら、行こうか」
3人は身の丈を超える塀を軽々と超え、内部に侵入した。
大きな建物が真ん中にあり、その周囲に、小屋が幾つかと畑が点在している。
小屋を覗くと、ガラの悪そうな男と、たまに男女がぐっすりと寝ていた。真ん中の建物は2階建ての蔵のような建物で、2階には年端もいかない子供から16かそこらの子供までが、並んで寝ており、窓には鉄格子がはまっていた。1階には、千両箱やたくさんの錠前や錠前破りの道具があり、ただ1つの入り口は、外から鍵がかかっていた。
声を潜めて、相談する。
「2階にかどわかされた子供達がいたよ」
「この天狗って、もしかしたら盗賊団じゃない?」
子供に錠前破りや忍び込む方法を仕込んでいるように見える。
「もう、やらされた子っているのかな」
10両盗んだら死罪というのが決まりだ。まあ、この場合は特殊で減刑されるかもしれないが、それでも無罪にはしてもらえないだろう。
狭霧の心配は、疾風も八雲も同じだった。
そこで3人は天狗と名乗るやつらを片っ端から縛り上げ、気弱そうな1人を選んで、先程と同じように尋問をした。
しかしこちらは、なかなか口を割らない。
なので狭霧が、薬湯を取り出した。
「仕方がないな。これを使うか」
男は気になっているのを隠すようにしながらも、横目でそれを見ている。
「これは自白剤でね。何でも喋ってくれるんだけど、たまに、そのまま心が壊れて戻って来ない場合があるんだよなあ」
言いながら、狭霧はその竹筒を持って、覆面の下で笑った。
「そうなったらごめんね」
「おい――!」
疾風がガッと体を押さえ、八雲が口を開けさせ、鼻をつまむ。そこへ狭霧が、竹筒の中身を流し込んだ。
一緒に寝ていた女は、失禁して怯え、震えていたが、猿轡で叫び声は上げられない。
男は自白剤を呑み込むと、倒れ、しばらくしたらトロンと酔ったような感じになってきた。
「お前らは、何だ」
「盗賊……」
「子供達は、何でかどわかして来た」
「仕込んで、仕事の手伝いを、させるため……」
「これまでに、子供にさせたのか」
「まだ……」
「閉じ込めた子供ら以外には、かどわかした子はいないのか」
「……いない」
それで、疾風達は目をかわした。
「これで全部か」
「平太も入っているといいけど」
すると、男は口を開いた。
「2人連れの奴が……子供を連れていた……が、たぶん……かどわかしだ」
それに、安堵しかけていた3人は表情を引き締めた。
「なぜだ?」
「両親とはぐれて泣いていたところに……親のところに連れて行くって……そう言ってるのを、聞いた……」
「その2人連れの事を話せ」
疾風は男に迫った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます