潮騒の恋心

「意外と綺麗な形のないね」


 波しぶきに服が濡れないよう注意しながら、私は浜辺に流れ着いた貝殻を検分していく。ひび割れ。真っ白。オレンジ。三日月の形。


 シーグラスにもなれないガラス片の近くを探り、危ないと彼に叱られ、やっと綺麗な貝殻二つ。両耳に貝を当てる。


「波の音聴こえた?」

「……ホントの波の音が強くてわかんない」


 笑う声。一呼吸。それから──。


「好きなんだけど。君の事」


 貝殻の耳当ても本当の波の音も、言葉をかき消してくれなかった。甘く、戸惑い。言葉に歓喜する、私の血潮。


 「わ、私も──!」


 その先の言葉に震える、私の心臓は潮騒。




Twitter300字企画第三回過去お題より……「海」(本文261字)

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