蛇足 牛の首
さて、以降は蛇足でつまりこれから述べる【私】とは何かという話に意味はない。
そもそもアイアムアイに自信がなければ【私】と世界にはそれほど差異がないといったのは正直なところ。
だが【私】こと
そして迷宮の主たる資格すらも持つ、ゴミ捨て場の創作者だ。つまり、多くの役割を持った危険極まりない悪夢の一つ。
「ぽぽぽぽぽ。でも、件ちゃんはそれだけでしかないんだよね……ぽぽ」
物語より遥か上から、高子は私を正確にそう言い表す。
そう、千里件なんていうものは、語り謎掛けするだけしか許されない旧い小咄。
機械仕掛けの神でもなければ、ゴミ捨て場の神すら降りた長大な高女に比べれば酷く矮小な存在だった。
故に、決まった事柄をこの口や思考はなぞるばかり。無意味な現象として、白紙の上に流れる嘘っぱちの語り部。
語りかけつづければ、そんな【私】は決まって口が裂けてもいえないような怪談を口にする。
何故かと言えばそれこそが、最恐という中身のない怪談の主である千里件唯一の希望。
そういった恐ろしい話が世の中には沢山転がっているということだけは、分かってもらえると信じているから。
「でも、終わっちゃったね。ぽぽ……」
だが言の葉は陽炎。形を変えて人を惑わすばかりで、正しさだって蜃気楼。全ては無常に消えていくもの。
まるで何もなかったかのように、通じ合っていたかもしれないという幻は消えていくのだった。
格上たる高子とて、それは同じ。呪いが永遠であろうとも、頁ばかりは有限。
コピーを続けて劣化していくばかりのこの世の中で、ただ一つの神に足る存在だとしても、終わりを看取るつまらなさはどうしたって捨てられないものである。
だがゴミ捨て場にハッピーエンドなんてありえない。天冠を当たり前のように頭に載せて、手を組み合わせて幾ら偽神がこう願おうとも。
「全てに、
呪りとしか動かない世界は救いに追いつくことなんてあり得ずに、でもだからこそ廻り続けるのだろう。
口が裂けてもいえないことば、了。
さてこうして、全てを認めたくなくても認める頭でっかちな【私】は全部を語り終えた。
決定稿としたなら、後には空の白が僅かあるばかり。だがもうメリーバッドエンドなんて絶対に嫌ならば。
愛しき恐ろしい話たちよ、あなた達は存分に許される限りの呪言をここに記すといい。
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