第13話 クリスマスプレゼント

「息子のクリスマスプレゼントを探しておるのだが……」


 インフォメーションに来た男性は70歳くらいだろうか。白いヒゲを蓄え、黒いハットに茶色のコート。小ぎれいでどちらも質の良さそうなものだった。


「息子さんへのプレゼントですね。お好きなものや、ご趣味などはありますでしょうか?」


「そうだな、最近は日がな一日ユーチューブ?というのかな?あれに夢中のようだな。外に出て体を動かせと言っても聞きやしない。あとはゲームかな。ワシがわかる範囲ではその程度だ」


「……あぁえっと、そういうものがお好きな方なんですね。お仕事はどんなものを?」


 多少面食らったのだろう。最初こそ少し乱れたものの、受付の女性は張り付いた笑顔をまったく崩すことなく質問を続けた。


「仕事か……仕事といえるようなものなど何もしとらん。いや、どうもそのユーチューブで人気だと金がもらえることがあるとか?『俺はこれで生きていく』とか息巻いているのは良く聞くが、実際に何かしているのは見たことがないし、いくら儲かっているものとも知らん。まあ仮にそれを仕事と呼ぶのであれば、それくらいだろう」


 一体どんなドラ息子だ。受付嬢は思っていた。もちろん少しも笑顔は崩さない。そんないい年をした無職の息子の衣食住を保証し、好きなことを好きなだけやらせて放置するどころか、クリスマスプレゼントを与えるなど、子が子なら親も親だ。なまじ裕福で余裕があるから良くないのだろう。考えているうちにだんだん腹が立ってきた。


「そうなのですね。それでしたら、やはりゲームや趣味のもの……」


「ああ父さん。こんなとこに居たのか」


 私が話し出すと同時に、一人の男性が横から入り込んできた。髪の毛は多少薄くなっているようだが、こちらも身なりは小きれいな40代くらい男性。白ヒゲの男性を「父さん」呼ぶのであれば、彼が渦中の「息子」なのだろう。であれば、日がな一日Youtubeを見て過ごしているのも彼か。人は見かけによらないものだ。早く帰ってボイスパーカッションの練習でもしたらいい。


「ああ、今クリスマスプレゼントが何がいいのか聞いておってな」


「本人に聞けばいいじゃないか、どうせゲームとかだろうよ」


「いやだからこそ聞きたくないんだ。子供には子供にふさわしいものが与えたいんだ」


「またそんなことを言って……ほら、お姉さんも困ってるじゃないか」


 目を白黒させるこちらに気が付いたのだろう。少し照れ笑いをしながら、その若いほうの男性は続けた。


「聞いてくださいよ。このおやじがね、62歳で子供作ってるんですよ。弟は今8歳で、僕とちょうど40歳差。親子じゃないかって良く間違われるし、失礼な勘違いもされたりして散々なんですよ……」

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