第27話 火こそ、間違うことなかれ。
「…そんな。」
「昇!早くしろ全身に燃え移るわよ!」
「ああっ、もう!」
その後も、羽交い締めにされたり、突き飛ばされたり、水をかけられた後、火を付けられまくった。「…これが、今日の訓練内容っと。そろそろジッセンもする頃合いね。でも、よくもまあこんな事を考えつくとは…まあ、問題はないけど問題はあるわね。」
早朝、カチューシャは今日行う昇(のぼる)の訓練内容を見ていた。
彼女は、少し不安そうに書類に目を通していた。
「まあ、これも必要になるかもしれないけど、火の種類ですけどね。所詮、軍隊は運隊、運命により導かれるものではなく、ただ、その時の運で全てが決まる。…いえ、それを防ぐために私達は訓練を積むものだ。…そう言えれば幸せなのだけど。」
そうは、言ってもいられない。
その言葉をカチューシャは飲み込んだ。
「…またか。」
いつもと同じように昇は目覚めた。
しかし、夢の内容は異なっていた。
朝、目を覚ましてとりあえずリビングに行きテレビをつける、その後、母親が作った朝食を取り、自分の部屋に戻って荷物を取る。
そして、俺よりも早く起きている妹に軽口を叩かれ、俺は逃げるように家を出た。
気がつくと、俺は教室にいた。
いつもと同じように、友達に会い、あいさつを交わす。
そして、授業が始まると俺はすぐに眠ってしまった。
それで、目が覚めたわけなのだが…。
「…とりあえず、食堂に行こう。」
俺は、いつもと同じように身支度をし、いつもと同じように食堂に向かい、いつもと同じように桜の元へ向かった。
「…おはよう、桜。」
「おはようございます、昇さん。」
「…。」
「どうかされましたか?」
怪訝そうな顔を浮かべる俺に桜は、問いかけてきた。
「別に…。」っと、返した。
「…お疲れのようですね?心の方ですか?」
「まあ、そういうところかな。…なんていうか、毎日が果てしないルーティンワークに見えてきた。」
「それは、大変ですね。」
「…。」
「昇さん?」
「…桜さんって、なんか反応薄いよね?」
「そうでしょうか?」
「なんていうか、言葉がパターン化しているような気がするんだけど?」
「いわゆる、デジャヴもとい、既視感ですか…。」
「そんなところかな。」
「…毎日がつまらないと…自殺まじかですね。」
「…マジ?」
「真剣(まじ)です。」
「…それより、今日の訓練内容は?」
「あっ、はい…。あの、昇さん?」
「うん?」
「もしかしたら原因はあなたかもしれませんね。」
「っと、いうと?」
「はい、あなたの活動が低すぎるのが原因ですね。それと、私達以外でのコミュニケーションが無い為、関係が閉塞してきているんですよ。」
「…ええっと、つまりは誰かと関係を持った方がいいってこと?」
「はい、そうです。」
「…っとは、言ってもね。」
…なんていうか、距離感がいまいちわからない。
ここにいる人達は、兵士だからというのもあるだろう。
とはいえ、俺にも非があるのだが…。
なんていうか、俺はまだ民間人だから…って、感覚が今も残っている。
というか、今の自分の立場があやふやすぎてわかっていない。
「…まあ、それは追々。」
「そうだね。」
「はい、今日は座学から初めてその後、指定された服で訓練を行います。」
「よしっ、それじゃあ移動するか。」
「…気が早いですよ。何か汚れて困るものとかありますか?」
「無いよ。スマートフォンは、ずっと部屋に置きっぱなしだし。」
「わかりました。それでは、行きましょう。」
同時刻
「はあ~、やっぱり疲れるわね。」
そろそろ昇が、桜に会う頃だろうか。
「…砂は大丈夫そうね。」
カチューシャは、基地の片隅でスコップを片手に砂を撒いていた。
「…よしっ、と…。」
辺りには、何もなく、邪魔になるような石や突起物は無い。
風の影響を加味したとしても周囲に影響を及ぼすことはなさそうだ。
砂の状態も悪くはない。
「…あとは、消火器具と火種一式か。服はジャンヌが用意してくれてるからこれで、ひとまずお休み。」
そう言って、カチューシャはスコップを近くに放り投げ、地面に倒れ込んだ。
「…今日も綺麗ね。」
目の前に広がる青い空は全てを飲み込んでしまいそうだった。
「明日も、この空があるといいわね。」
…明日も…っか。
どこか遠い響きがした。
講義室
「さて、消し方はわかりましたか?」
「…わかったけど。毒には、どう対処するんだ?」
「…う~ん、人体に有毒なものですからなるべく遠ざけるのが一番ですけどね。とはいえ、有毒物質くらい日常茶飯事ですから。」
「…せめて、どうすればいいのかぐらいは。」
「そうは言っても、敵がどんなものを使うのかわかりませんからね。ナパームなのか、リンなのか、ガスなのかわかりません。あとは、あなたの運次第。」
「…酷い。」
「仕方ありません。そもそも、日常でも爆弾が作れる世界に居たのにそんな事にも気付かなかったんですか?」
「…まあ、そうだね。」
「ジャンヌ、そろそろ。」
「…わかった。それじゃあ、実践と行きましょうか。とりあえず、その服に着替えておいてください。」
「わかった。」
「それでは、お先に失礼します。」
そういうとジャンヌは部屋をあとにした。
着替えを待つと、桜も続いて出ていった。
部屋には、俺と例の着替えが置いてあった。
「これか…ボロボロだな。」
ジャンヌに言われた着替えはところどころ糸が出ていた。
そして、何よりダウンジャケットのような厚い服だった。
上下あり、刃物で切り裂いたような跡があった。
「…まあ、いっか。それより、この服で何をするのだろうか。」
そう思い、部屋を出た俺はすぐに後悔した。
そして、いつもと同じように…とは、何だったのかをわからなくなった。
ジャンヌと桜に案内されるように俺は、基地を歩いていった。
着くと、そこにはカチューシャが居た。
服が少し汚れていた。
「お待たせしました。」
「よしっ、それじゃあ始めるわね。あっ、ジャンヌ消火器とかそこにあるからもしもの時はお願いね。」
「はい、お任せください。」
「よしっ、昇!」
「あっ、うん…。」
「とりあえず、そこの砂地の真ん中に立ってて。」
「わかった。」
これから、何をするのだろうかと思った。
「それじゃあ、着火!」
「着火って、カチューシャ!」
俺の背後に回り込んだ、カチューシャはこれまた最初から仕組んであったような服の切り裂かれているところに、火をつけた。
勿論、ほつれているため燃えやすい。
「…なっ!」
背後を見ると確かに燃えていた。
「カチューシャ!」
俺は、慌てて叫んだ。
「早くしないと、髪まで焼けて大怪我するわよ。」
「…それよりも早く!」
「昇さん、これは訓練です。私が教えた通りに!」
「頑張れ!」
カチューシャのいつも通りの声と、ジャンヌの冷静な声と、あまり頼りにならない桜の声が聞こえた。
…手で消すことも可能だがそれだと、火傷を負うことになる。
ここは、冷静に考えて服を脱ぐべきだが、ファスナーとボタンの両方を使っているため、時間がかかり燃え移ってしまう。
…何か…。
周りには、何も無かった。
心なしか、三人の目から色が消えていくように見える。
…砂。
残っているのは、足元にある砂だけだった。
「くっ…。」
受け身をとるようにして、地面に身体を付ける。
そして、熱さを感じなくなるまで俺は、転がり込んだ。
「…やっと、消えた。」
「お疲れ。」
「お疲れ様です。」
「お疲れ様でした。ちゃんとできたじゃないですか。」
「しんどい。」
「それじゃあ、もう一回!」
「えっ?」
桜が何かの液体を俺の脚にかけてきた、そして、ここぞとばかりにジャンヌに火を付けられた。
「ジャンヌ!桜!」
「ごめんなさい。」
「昇さん、ごめんなさい。でも、訓練なので悪しからず!」
何とか、全力で消火した俺は、八つ当たりとばかりにその後の火炎瓶を使った訓練に全力で取り組んだ。
しばらく、火は見たくない。
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