第18話 友情と戦場
「…飛び出して行っちゃいましたね。」
「そういえば、彼、この施設のことよくわかるの、桜(さくら)?」
「いえ、絶対にわかってないかと…ちょっと探してきます。」
「あっ、桜!彼の服は、事務所に届いているはずだから、よろしく。」
「カチューシャさん…あなたそれも伝えずに…。」
「しっ、仕方なかったの…それに、私は人見知りだし。ほら、早く!」
「まったく…何で私ばかり。ああ、もうわかりましたよ!行けばいいんでしょ!」
そう言いえると、桜は部屋を出て行った。
「…カチューシャ?」
「ん?何、ジャンヌ?」
「あなたは昇(のぼる)さんのことをどう思いますか?」
「男らしくない、なよなよした男だと思うよ。」
「そうですか…。」
「ん?あんたもしかして気になってんの?」
「いえ、私は…。」
「そういうところだぞ。まったく、可愛げねーの。」
「カチューシャさん?」
「ん、何?」
「ちょっとお話があるんですが?」
「おっと、そういえば、弾丸とライフルと拳銃も渡してなかったっけ?桜に今から頼むのも癪だから取りに行ってきます。」
「ちょっと!」
ジャンヌの呼びかけにもかかわらずカチューシャは昇や桜と同じく部屋を出て逃げ出しっていった。
「はあっ、まったく…。」
部屋にはジャンヌだけが残された。
「…ああ、もう!いいですよ!私も行きますよ!」
そうして、勢い良くドアを開けるとそこには大柄のロシア人の男性がそこに立っていた。
「おっと、危ないなジャンヌ。そんなに慌ててどうしたんだい?」
「あっ、すいません。」
「いや、大丈夫だ。だが、基地内をむやみに走り回るのもどうかと思うがね。それより、今日は会議ではなかったのか?長篠くんに関する?」
「それが…彼、どこかに行っちゃいましたので。」
「少し待て、なんだ逃げ出したのか?」
「あっ、そうではなくてですね。…どちらかというとカチューシャにビビってしまった感じでその場から逃げました。」
「…まあ、わからなくはないが。とにかく、彼を早く見つけるんだ。前にも言ったが彼は素人同然…いや、ただの少年だ。しかも、トヨトミとかいうやつのせいで彼等は武器を持っていないのだろう?…それなのに…はあ~。」
「…本当に、申し訳ございません。」
「まあ、いい。早く探しに行け。それと、しばらくは彼を見張っておくことだ。」
「了解しました。」
そして、ピョートルは基地の司令室へと向かった。
ジャンヌは、軽く胸をなで下ろして、カチューシャを探しに行った。
「ああ、もう本当にあの男は―!」
二人よりも先に部屋を飛び出した桜は昇を探していた。
カチューシャとジャンヌには半場喧嘩のような状態になって逃げだしてしまった。
それも全部あの少年のせいだ。
「…ここじゃないな。」
「見つけました!」
そして、あっけないほど簡単に彼を見つけることができ、すぐさま、彼を案内した。
「…昇さん、勝手な行動は慎んでください。」
「…すいません。」
「まったく、ここは近所の公園ではないんですよ!そこら辺に、銃火器や鈍器、資料など大事なものばかりなんですよ!もしかしたら、あなたにスパイ容疑がかけられる恐れもあります。基地のことがわかるようになってからにしてくださいね。そうでないと、困るのは私なんですから!それと、カチューシャが怖いからって逃げ出さないでくださいね。あの子、あんな性格なのにすぐに凹みますから、お願いしますよ!」
「はい…。」
まさか、こんなに怒られることになるとはっと、昇は思った。
確かに、話も聞かずに飛び出した俺も悪いとは思うのだが、かれこれ同じ様な話を5分ほど続けられるとこっちも凹むんだよな。
「まったく…それに、人間関係は軍の中でも大事なことなんですよ。確かに、通信網の発達で顔を見せなくても会話ができるようになりましたがそれは、褒められたことではありません。友人にくらいならではダメなんですよ。苦手な上官が死んでも嬉しがってはいけません。葬儀で悲しめるように日頃から演技の練習すればとか、そんなことを考えてはいけません。…聞いていますか?」
「…はい。」
「それじゃあ、なんて言いましたか?」
「人間関係について…。」
「ほら、全然私の話を覚えていないじゃないですか、もう一度最初から言いますよね。いいですね?」
「…いや、大丈夫。」
「…信じられませんね。それじゃあ、もう一度話しますよ。人間関係が戦場において重要な理由は、戦うことへの理由づけなのですよ。兵士が一番に考えるのは国や家族ではなく、戦場の仲間なんですよ。そのため、友人部隊というものもありました。それと、兵士の現地調達もありました。だからこそ、というか何よりもコミュニケーション能力が大事なんですよ!一人では、戦えません。それに、何度も言いますけどねえ…関係を深めていなかったらあなたは絶対に仲間や上官でも見捨てようとしますよね。確かに、仕方がないっと思うかもしれませんが、しかし、その後も立て続けに仲間を見捨てるでしょう。そして、見捨てられます。私は、確かに、社会は嫌いですがあくまでも仲間のためとか軍のためとかそんな風に考えれば良いんですよ。ただの仕事だ。それで、充分ですよ。とにかく友人の存在は大きいんですよ!訓練中に人との関わり上手な奴がうざいからって、コイツはよ死なねえかねとか考えていてもいいですが、いざ、戦場となれば協力してくださいね。別に、どんな人でも友達になりなさいとまでは言っていません。死んだら、札を回収するだけ良いんですよ。それか、歯にかませてやるだけで良いんですよ。簡単なことじゃないですか?とにかく、気の合う人を1人でも見つければいいんです。あなたがやるべきことは任務の達成です。それを考えていればいいんです。声が出すのが恥ずかしいとか、そんな羞恥心はすぐに無くなります。それよりも、怖いのは誰かと話すこともなく、1人で抱えて込んでしまう事です。…さて、もうさすがに覚えましたよね?」
「ああ…コミュニケーションは大事、友人を作る、そして、任務を達成するだろ?」
「はい、ですが…それだけでは不十分ですよ。さっきみたいにカチューシャの前から逃げたら彼女はどう思うでしょうか?」
「…なんか、道徳の授業みたいなんだけど。」
「あっ、やっぱりちゃんと私の話を聞いてないじゃないですか!確かに、私は戦場で芽生える友情とかそんな芸術的なことではなく…。」
それから、俺はただ彼女の話を聞いた。
時折、答えたりしたもの…それでもなお、桜は話し続けた。
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