第57話 逃がさない
パーティメンバーを増やす案を、あの後よ~く考えてみた。
ケンタウロスと言ったら、大きな体の半人半馬のモンスター。
もうそれだけで絵になるし、後衛から繰り出される矢が敵を貫くんだ!
『お、助かったよ、ケンタ』
『いいってことよ、ヒヒ~ン』
なんかイイ、気持ちが高ぶってきた。ティムする為のアイテムも、たくさん用意しちゃったよ。
ニンジン・飼い葉は必須で野菜も色々と、矢も消耗品だから銀の矢とか買っちゃった。よーし、準備OK! 必ずゲットだぜー!
と、勇んで出発したけど森は広い。本当に広い、とにかく広いんだよ。
行けども行けども、目的のケンタウロスが見つからない。
それに僕たちは森での最強クラスではない。だから強敵を見つけたら、回避しつつ、捜索を続けるので時間もかかるんだよね。
いろんな寄り道をしたりするから、その代わりと言っちゃなんだけど、いつもとは違う沢山の物を見つけた。
マンゴーみたいに甘くてチュルンとした果物や、秋の味覚マツタケっぽいやつ。マツタケはハーパーに叩き落されたので、きっと毒キノコだ。
あとは今年最後となる、薬草の採取もついでにできたよ。
闇雲に歩いているせいで、効率は全然良くないけれど、新発見の場所ばかりなので来年以降、役に立ちそうだ。
こんな感じで僕らは何日も野営をし、ケンタウロスを探し続けた。
森は深くどこまでも続く。道もなく苔の絨毯の上をひたすら進んだり、山のふもとまで来てみたり。
時折、形を成さない、白い精霊が通り抜け意識を向けさせられる。朽ちた遺跡の入り口、呼び寄せるかのように漂っている。
「ユウマ、あれに誘われ行っても良い事はないぞ。
あれはアンデッドの残りカス、ああやって人を誘い、仲間にしようとしておるのじゃ。
脅威は少ないが、しつこいので関わらぬのが1番じゃ」
人の怨念のだろうか、思わず手を合わせてからその場を立ち去った。
そんな探索の中でも楽しみはある。それはやっぱり食事、でも森の中の食事には気を使うんだ。
火の不始末による、火事も注意しなければいけないし、それと火や煙で、招かざるモンスターが寄って来てしまう。
食事の支度をするときは火を使わずに、魔導具を用意しておくのが一般的だ。
世の中色々と便利なものがあって、電気コンロに似たものや、高温を持続させる鍋などもある。
基本それらで作るスープとパンで、朝とお昼は簡単に済ませる。
何度目かの同じような食事ではあるが、作っている間のこの時間は楽しい。
涎も出るし少し気持ちが明るくなるよ。
今朝もこの食事前の時間に、エブリンだけが先行して探索をしてくれている。そろそろ戻る頃かな。
「ねー、キンバリーなんで見つかんないんだろうね」
「申し訳ありません、マイマスター。この周辺に生息しているのは確かなのですが……」
「キンバリー、ユウマは責めているわけではないぞ。
この異変何が聞き及んでいないかと思ったのではないか?」
あ、ごめんネ。変な風に聞こえちゃったかな。
「何しろ遠くのモンスターのテリトリーで、あまり気にかけておりませんでした」
そこへエブリンがお腹すいたーと帰ってきた。
「マスター、やっぱり一匹も見当たらないんだぎゃ。代わりに邪魔な人類が20人ほどいたぎゃ」
中途半端な数の集団だなぁ。軍隊ではなさそうだけど、大きいのと小さいのが混ざったグループだそうだ。
「もしや、討伐隊でも組まれた可能性もあるのう。
いくつかの冒険者パーティかもしれぬの」
討伐隊の対象がケンタウロスだったら、鉢合わせになるかもしれないじゃん!
接触しなくても、相手の動きを掴んだほうがいいという意見が出た。
食後エブリンに先導してもらい、静かにその集団に近づいた。
彼らは丘を1つ越えたところにその集団はいた。
馬車は2台あり、まだ朝の支度中で6人の男達が外でダラダラと動いていた。
着てる服はバラバラだけど、何故か同じ剣を
それにしても馬車は荷物を運ぶというより、護送車という感じがする。それにあとの残りの人達が見当たらない。
「マスター、残りはあの馬車の中だぎゃ」
男たちが中にいる人に、食事を持ってこうとしている。あれ、扉の鍵を開けたよ! 鍵付きっておかしくない?
僕は中にいた人達の姿を見て衝撃を受けた。
みんな鎖に繋がれうな垂れており、怯えた顔で男たちを見ているのだ。
その光景で全てが理解できた! あいつらだ。またあいつらが僕の前にやってきた!
人さらいの集団、ベッツィーを拐った奴らに違いない。
心臓が早鐘を打つ。ベッツィーはいるはずがないのに探してしまう。
「ベッツィー助けるよ。今度は逃がさない! 今度は絶対助け出す!」
「……マスター」
「みんな聞いて。やつらは人さらい集団だ。捕まった人たちを助け出し、そして奴らを生きたまま領主様に突き出す。
その上で意見を聞きたい、どうしたらいい?」
「マスター、あんな弱っちぃの捕まえるって簡単だぎゃ」
「……しかし、あれだけの数しかいないのかのう?」
「その可能性もあるのなの。仲間との合流。様子を見るのが大切なの」
あつくなった頭が冷静になってきた。
もし今、奴らをやっつけても残りがいたら逃げられる。それを避けるために見張りをすることとなった。
このままキャンプを続けるのであれば、間違いなく仲間はいるだろう。
逆に移動となった場合は、行き先の方向で対策をかえる。
街の方へ行くなら1日様子を見てそのアトで確保。
反対の森の奥へ行くなら、どこに行くかを突き止めることで、みんなの意見が一致した。
長い時間が経過した、僕はほんの一瞬でも気を抜かない。そんなことで後悔なんかしたくない。
正午前に3台の馬車が合流してきた。その中に1人腕の長い男がいた。
見覚えがあるぞ。ユバの街でベッツィーを拐った張本人。ファルサと呼ばれ、それを嫌がった名前のない男だ。
今すぐ奴を捕まえて、あの子の居場所を吐かせてやりたい。でも、まだだ! まだ今は我慢をしないと。
「なにやら、変な奴もおるのう」
やはり、名前が無いことはおかしいようだ。
「見覚えはないが、何処ぞで……」
あんな印象的な人物忘れるなんてないよ。誰かと勘違いしているよ。
「それもそうじゃのう」
やつらは食事もそこそこに終わらし、森の奥とは反対の方へ出発した。
気づかれないよう尾行、先回りもして状況を確かめる。その日の夜はまた森でキャンプをするようだ。
1日中見てたけど、捕まった人たちは一度も外に出されることがなかった。不衛生で窮屈な思いをしているだろう。
食事は3度出されているけどパンと水のみ。もう少し辛抱してね、必ず助けるよ。
そして奴らを捕まえて、ベッツィを助け出す手立てを、何としてでも掴むんだ!
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