サルマワシ
第43話 それからの僕
3階のフロアボスを攻略した3日後、ベルトランとナオミを見送るために集まった。
ナオミも王都にある魔法院に入るため一緒に行くそうだ。
予めお世話になって人には挨拶を済ませてある。
だけど、ベルトランは肉屋のチャティーさんにだけはもう1度会ってきたようだ。
何度も頭を下げられ困ったと悲しそうな顔で教えてくれた。
「……ベルトラン……ナオミこ……れを」
僕たちが攻略した白百合の迷宮で1階から3階までの地図の写しだ。
ミーシャが記念にとみんなにも渡している。
そして僕も渡すものがある。
「これ、みんなにも持っていってほしいんだ」
全員にMP丸薬200個ずつに痺れ薬も少々。
これから先何があるか分からないし持っていても損はない。
この前の秋からギルドランクを上げるため薬草採取に励んでいたから、これくらいの量わけないよ。
「わりぃな、みんな……じゃあ行ってくるぜ」
あっさりとした別れだった。これ位が丁度いいのかも。
それから2日後、ポーも年末用に仕入れた品が売り時だと言って南へ旅立ち、
残ったドンクとミーシャも春の種まきに間に合うよう出発すると言っていた。
僕はその後、殆どソロ活動が中心となっていた。
解散してすぐ他のパーティへ入るのは気持ちがついていかないし、
いくつか顔見知りの人に誘われたが丁重に断った。
とにかくやる気が起こらないんだ。
今まではどこに行くにもメンバーの誰かは一緒だった。
だから買い物をしていても……。
「この魔道具面白そうだね?」
振り返っても誰もいないのに、ついつい話しかけちゃう。はたから見ていたら変人だよ。
なんだこの嫌な感覚は……忘れていたけど、もしかしてこれは……イヤ、思い過ごしだよ!
あれから僕も成長したんだ、絶対そんなはずはない。
でも…………これは……間違いない。
――――ボッチの状態だ!
怖くなった僕は臨時でパーティに入れさせてもらう。
その時は分身の術など使わず求められるポジションをこなした。
これはこれで結構楽しい。いつもとニーズも違うし良い勉強になる。
うん、ボッチじゃない。
ちゃんとパーティにも入れてもらえるし何より頼りにされている。
ふ~、僕の勘違いでよかったよ。うん、うん、うん、そうだと信じよう。
そんなスローライフを過ごしている中、1つだけ熱中していることがあるんだ。
それは今まで棚上げにしていたスキル『サルマワシ』だ。
これは端的にいうとティム、つまり従魔契約のスキルだ。
なぜ今まで使わなかったかというと、契約する時の前段階に手間がかかり、
パーティを組んでいると気軽にはできない。
手順としてまずは、相手を心服させる必要がある。
この人にはかなわない、この人すげーと思わさなければいけない。まっ、当然か。
そうしてからスキルの発動。
この間対象モンスターは襲ってこないので安心で、上手くいったら契約となる。
しかし。
――ドゴッ――
横っ腹にいいのをもらった。別モンスターの乱入だ。
対象モンスターは襲ってはこないが他のは別なんだ。
しかもスキルが発動していると途中では止められない。
メッタ打ちにされる。
クーッ! HPはそんなに減らなくても結構堪えるね。
こうならない様に平原のウサギで試していたがミスしちゃった。
気を取り直して次行こう。
レベル10になって力も上がり、殺さない程度にHPを削るのも一苦労。
そしてパーティを組んでこれをしなかった最大の原因はこのスキルの発動モーションにあるんだ。
「♪モ~モタロさん モモタロさん おっこしにつけたきびだんご~ ひっとつわたしにくださいな♫ あ~げましょお あげましょお わたしについてどこまでも~ ついて~くるならあげましょお♪」
熱唱プラス振りもいる。少し歌詞違うし……。
こんな恥ずかしいこと人前ではできるはずないよ。
しかもティムに失敗して〝フン〞ってフラれたとき心へのダメージは大きいよ。
「おかしいなぁ。
〝心服させた相手にスキルを発動すると高確率でティムできる〞
てあるのに、いいところ5回に1回ぐらいじゃん」
何がいけない? これはいろいろ試さないと、手の振りや顔の角度? ――ドゴッ――
イタッ、もう1度。今度は流し目では……ダメか。
歌の工夫をしてみよう、ビブラートをつけたり、もっと大きな声? ――ドゴッ――
う~、全然ダメじゃん。1日中やっても何も掴めなかった。
明日もこれをやるのか……人に見られないよう本当に気をつけないといけない。
あれから何日も頑張っているが孤児院への寄付のお肉が増えるだけだった。
それでも今日もまた歌い続けます。
「♪モ~モタロさん モモタ」 ――ドゴッ――
またやられちゃった、集中集中! 何も掴めないまま時間が過ぎる。
「はぁ~、どうしたらいいんだろう」
ギルドで調べても普通のティムは載っているが〝サルマワシ〞はその文字すらない。
情報が全くないんだよ!
だから自分で考えて試すしかないんだけど、思いついたこと全部出し切っちゃった。
もう無理です。
それに何度も歌っているせいで、
普段でもつい口ずさんじゃう変な癖がついたし困ったよ。
「♪おっこしにつけたきびだんご~」
今もまた歌っていた、ヤバッ!
…………ん? キビダンゴ?
もしかして歌詞をなぞっているスキルならきび団子をあげる? おっ、キタかも!
きび団子は手に入らないからMP丸薬でやってみよう。
「ついて~くるならあげましょお♪」
バッと手の平に丸薬を出す、どうだ?
〝プイ〞
くーっ! いや めげない。他のもいっぱい出してみたらどうだ。
ヤケになり短剣 HPポーション しびれ薬 ビー玉 パンと一気にいろんなもの出してみた。
〝キュ?〞
HPポーションを受け取ったー!
―――――
ホーンラビット:オス
Lv:1
従魔契約主人:ユウマ·ハットリ
ステータス確認をしてみるとちゃんと従魔になっている。
嬉しくなって何度も試しちゃった。そして、その度に次々と受け取ってくれる。
キターーーーーーーーー!
たまに目当てのアイテムがなくフラれてしまうこともあるけど
〝きび団子作戦〞上手くいきました。
検証してわかったけど、同じ種類のモンスターでも個体によって好みがある。
受け取るアイテムは薬や食べ物など消耗品であること。
あとは丸くなくてもイイってことがわかったよ、ははは……。
「……ねぇ、君……ベルトラン……僕とパーティ組まないかい?」
そんな馬鹿げた問いかけにホーンラビットは答えるはずもなく、
きょとんとした顔をしている。…………僕は何をやっているんだろう。
少し前まで一緒にいたHEROESの5人。内容の濃い1年だったなぁ。
他の人は10年以上かけて到達する所へたった1年でたどり着いたんだもん。
考えてみれば嫌な思い1つしたことがなかったし、
いつも笑っていつもはしゃいで、ボッチだった頃には考えられないことだよ。
キラキラしていた仲間、そんな彼らは自分の進むべき道を見つけ歩き出したんだ。
――ピシャッ――
顔を叩いて気合を入れた。僕ももう少しだけ頑張ろう。
従魔にしたホーンラビットはその度に野に戻した。
いくら寂しいからってモンスターはみんなの代わりになんてならない。
だいたいウサギを盾役にするなんて考えただけでも恐ろしい。
それに、考えてみたら今まで散々ウサギ狩りをしてきたし、
皮も剥いでベッドでも使っている。
だから今更何だよねぇ、それに従魔にしたその個体が毛皮を見たらひっくり返るよ。
……だから今は練習だけにしておくんだ。
最近ハンナとよくお茶をしている。
今日は人気が出てきたカフェ·トロンに来ている。
「やっと座れたねぇ、もう注文するものは決まっている?」
このお店でのお目当ては店の名前も付いているスウィーツ『クリーム・トロン』
山に盛られた3~4㌢の丸いふわっふわのドーナツを特製生クリームをつけて食べる。
今このユバの街でいつも長蛇の列を作る人気のスイーツだ。
ちょっと柔らかめの生クリームに1枚だけ花びらを添えているのが可愛いと評判だ。
「う~ん美味しい! ユウマ君そっちのも頂戴」
ハンナのはノーマルタイプだけど、僕はシナモンをかけたのにしたんだ。ハンナも気にいったみたい。
「近頃ユウマ君、ちょっと元気が出てきたね、私嬉しいわ」
「元気ていうか、前に言っていたスキルがものになってきたんだよ」
一時期何もする気もなく、ハンナに心配をかけていた。
それを何も言わずにじっと見守っていてくれた。
ありがとう、ハンナ。きっともう大丈夫だよ。
明日はどこのお店に行こうか?
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