第77話 村人、最後の戦い
ベスト4をかけた最後の試合が行われる。
昨年度の優勝者、近衛師団副隊長のガーフィールドと村人ネロとの戦いだ。
下馬評で一番の不人気試合。多くの観客たちは帰り支度を始めている。
辛うじて帰らず見ている者もいるが、結果はみんな分かっていた。
ネロがケガをしないように負けるには、始まってすぐに降伏するしかない。
だから、そのようになるだろうとみんな考えていた。
残っているのはそれを確認するためだけである。
中肉でがっしりとした体形のガーフィールドは、あごひげを撫でながら、対戦相手のネロにこう言った。
「どうだろう。観客たちも期待はしていない。予想通り、降伏してくれないか。だれも君を責めたりはしない。私も君を傷つけずに勝つ自信がない」
ガーフィールドは国を守る気持ちが高い正義感溢れる男だ。
部下からも慕われ、そしてその能力は猛者ぞろいの近衛師団の中でも群を抜いていた。
「おらが弱いことは十分承知しているっぺ。ここまで来られたのは奇跡だっぺ。けれど、まだ村の人たちを助けるには資金が不十分だっぺ。だから、全力を出して戦うっぺ。全力を出さないと奇跡は起こらないっぺ」
ネロは右足を一歩出して構えた。持っているのは手槍。ほとんどの武器は扱ったことがなく、剣などを不用意にもてばそれだけでケガをする恐れもあった。
鍬や鋤に似たサイズの手槍がなんとか扱えそうな武具であった。
ガーフィールドはネロの言葉を聞いてさすがに不愉快になった。ケガをさせないように神経を使っているのに、全力を出さないと奇跡が起こらないと言うのだ。
(お前、私に勝つつもりか?)
「奇跡が起ころうともお前が私に勝つなどということは絶対にない。奇跡頼みでは私には勝てない。勝つつもりなら力や技で勝ることが必要だ。実力も努力もなしに奇跡などという都合のよいものを頼るな!」
ガーフィールドは剣を抜いた。王国騎士の標準装備であるブロードソード。普段から自分が使用している愛剣だ。
「おりゃああああっ~っ!」
ガーフィールドは一太刀を浴びせた。手槍で防ごうとしたネロは槍が斬って落とされ、体が後方へ浮くのが分かった。
激しく尻もちをつき、さらに後方へ激しく叩きつけられる。もし、尻もちをつき、勢いを軽減しなかったら頭をひどく打って死んでしまったかもしれない。
頭を守るために鉄製の兜を被っていたので、大けがは免れたが背中を激しく打ったので息ができない。
「くはあああっ……」
肺が苦しい。何とか空気を吐き出して、口を開けて今度は取りこもうとするが、吸う力が湧いてこない。
「わあああっ~」
「すげえぜ」
「力は歴然」
「もうとどめを差してやれよ!」
観客たちはあまりにも一方的な展開に予想されたとはいえ、ブイーイングとネロへの非難が起こる。
実力のない者がこの決勝トーナメントに出ることが許されないことだ。
「かはっ……はあ……すう……はあ……」
何とか呼吸が戻ったネロ。
自分の防御魔法の数値を見る。
「150」と表示されている。
受けた一太刀で150ダメージを受けたのだ。
最初の攻撃で半分を失った。
どう考えても負けだ。
(負けたくない……村の人たちに……少しでも賞金を……)
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