02

「おお、やっぱ広いのぉ、この屋敷は。ほんまに立派やで」


「ああ、俺も初めはこんな家にいっぺん住んでみたいなぁ思たわ」


「せやな。俺らみたいな庶民からしたら洋館なんて雲の上の存在やからな」


「ところでお前、よう考えたら、そこで何をする気なんや?宮上さんの追悼や、言うといて、ほんまはただの肝試しがしたいだけやないのか」


「まあ正直なとこ言うたら、それもある。俺、心霊とか割と興味あるしな。せやけど、やっぱあの人の仇討ちたいねん、俺は」


「アホ言うな。相手は人間でさえあらへんのやぞ」


「…」


「おい、どないしたんや」


「いや、今、微かにパチって何かスイッチ押すみたいな音が聞こえたんや」


「スイッチ?」


「誰かが押したんかも分からん」


「まさか、そこに誰か住んどるんか」


「いや、生活しとる感じはせぇへんし、流石に人が住み着いとるっちゅうことはないやろけど」


「せやなぁ…」


「第一、こないなところに住むやなんて、気が狂てまいそうや」


「そないな物好きはおらんか…」


「そういえば、昔はこの洋館にほんまに人が住んどった、いうのは聞いたことあるで」


「ああ、確か普通の家族やったんやてな」


「厭、人間的には普通かもしれんけど、こないなごっついとこに住んどったんやから、そらもう生活水準は違うがな。ごっつい贅沢な暮らししとったらしいわ」


「その家族は結局どないなったんやった?」


「噂によるとな、まあ、噂言うても俺が子供の頃に近所の小母はんから聞いた話やねんけどな。突然誰もおらんようになってしまいよったそうや。初めは旅行か思てたけど、いつまでも帰ってくる気配がなかったんや」


「いきなり引っ越した、っちゅうんかいな」


「引っ越し…せやなぁ…けど、どっちか言うたら、全員が一斉に家出したみたいな、って言うてはったわ。昨日まで普通に暮らしとったのに、朝になったら誰もおらん。普通の引っ越しで片付けてまうんは、ちょっと居心地悪いわな」


「けど、一家惨事件っちゅう訳でもないんやろ?」


「せや。家には死体なんてあらへんかった。ほな引っ越しかて思うけど、荷物も全部そのままやったんや」


「家から人だけが消えよった、そういう訳か」


「まあ何があったんかは皆目見当もつかんけど、この家で何かしらあったんやないか、っちゅう意見がほとんどや。中には、金持ちの道楽やないかっていう意見もあるみたいやけどな」


「なるほどなぁ…てかお前、普通に喋っとるけど、そっちはなんもおかしなことあらへんねやろな」


「心配せんでええ。今、客間を見て回ったんやけど、特になんもなさそうや」


「ほんならええけど…」


「それにしても暗いな…」


「おい、どないした」


「今、ドアが閉まるみたいな音が聞こえたんや」


「嘘やろ!?それ、五年前の時も…」


「ああ、聞こえたな。さあ、懐かしの食堂に着いたで」


「食堂か…厭な思い出だらけや、そこは」


「うわっ!」


「どないした、今度は」


「いきなり人形みたいなんが足に落ちてきたんや」


「人形?」


「ああ、暗ぁてよう見えんけど、多分女の子の人形や」


「なんでそんなもんが食堂にあんねん」


「分からんけど、何か気味悪なってきたわ」


「人形なんか前はあらへんかったやろ」


「うわっ!」


「何や、何があったんや」


「…」


「おい、何や」


「今な、この部屋の電気がいきなりつきおって、よぉ見たらこの人形、片目があらへんねん。ほんでビビッてもうたんや」


「絶対ヤバいやつやないか、それ。しかも、何で勝手に電気が点くんや」


「そんなもん分かるかいな…おい、えらいこっちゃ」


「今度は何や」


「全部の椅子に、この人形が座ってんで」


「はぁ!?何やねんそれ」


「誰がこないなことしたんや。五年前はこんなんあらへんかったのに…」


「誰かがそこに出入りしとるんか、やっぱり」


「そらここは知る人ぞ知る幽霊屋敷やからなぁ。若いのんが悪ふざけで、っちゅうのは分からんでもないけどやな、こないにぎょーさん人形並べるんは、ちょっと正気やとは思われへんわ」


「それに何や、さっきから。音がしたり、電気点いたり。やっぱり、そこに誰かおるのと違うんか」


「そんな怖いこと、頼むから言わんといてくれ」


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る