だい〝さんじゅうご〟わ【決戦! 総選挙なスーパーうぇんずでぃ・投票編】
さらにまとめ先輩が続けている。
「〝学校公認〟の同好会とする以上は、当然登録書類の代表者氏名欄に誰かの名前を書かなきゃいけない。不本意と思おうと誰かをトップに置かないと。もちろんそれは解ってるわよね?」
かくして〝ドン!〟と、号砲は鳴ったのだ。
「会長は先輩に決まっているんじゃないですか?」安達さ……違った、しーずかちゃんがそう応じた。
「決まっているみたいなものだけど、あくまで正当な手続きを踏むべきと思うのよね」と、まとめ先輩。
〝決まっているみたいなもの〟とは言ったが常識的な意味では決まっていない。まとめ先輩はこの集まりの中の唯一の先輩でありながら先々のことを考え『会長はやらない』と、既に打ち合わせ済みなのだ。
「正当な手続きって?」しーずかちゃん……馴染めない……が言った。もう僕の中では安達さんにしちゃおうか。
「当然選挙よ!」まとめ先輩が即座に断言。シナリオ通り。
「立候補は自薦ですか? 他薦ですか?」と安達さんが訊く。
「もちろん他薦! 『ぜひやって欲しい』という好きな人に投票するの!」
「もちろん——のあとは〝自薦〟にはならないんですね?」
「そこはわたし達ならではの事情がある。ここにいるほぼ全員がこれまで会長だったからね。みんなが〝自薦〟しちゃったら選挙にならないし」
「さすがに2票で会長になれるとは思っていませんけど」と安達さん。
やっぱりなにか殺伐としてくるよな。しかし一応〝他薦〟を否定されはしなかった。
これまで何の会も主催していない、イレギュラー参加の徳大寺さんが並み居る会長たち(?)を差し置いて、唐突に『わたし会長になりたい!』と名乗りを上げちゃうのも不自然だからな。ごく自然に計画を展開させるには〝他薦〟以外あり得ない。
その安達さんが続けて発言する。
「そうなると自分の票を自分には投票できませんね」
「……」
あれ?
「〝他薦〟で行くなら自分で自分に投票するのは禁止にするべきです」安達さんはキッパリと言った。
あ〜ぁ、まとめ先輩どうするの? これって打ち合わせは台無しってことだよ。徳大寺さんは徳大寺さん自身に投票できないし、まとめ先輩も自分に投票できなくなる。徳大寺さん4票、まとめ先輩1票の予定が————やっぱりでたとこ勝負になってしまうのか。
「うん確かに変ね。しーずかちゃんの言うとおりね。そうしましょう」
まとめ先輩言っちゃった。ホント計画ってその通りにいかない。
「ちょっと待ってください——」突如別の声。声の主はういのちゃんだった。
「自分で自分に投票するのが禁止なら、投票用紙に自分の名前を書く必要がありますよね?」
「え? 〝禁止〟なら自分の名前を書いちゃダメなんじゃ?」それはにーにーちゃんだった。
「この場合の『自分の名前』ってのは例えば自分の持ち物に書く自分の名前なの。自分の名前とは別に『会長候補』の名前を書くってこと」とういのちゃんが解説する。
「うぃぃ……」にーにーちゃんが萎縮してた。
「つまり専門用語で言うところの『記名投票』ってやつね」まとめ先輩が言った。
どんどん混沌としてきたぞ。
「すると誰が誰に入れたかがはっきり分かってしまって後々問題を残すのでは……?」と、ここは懸念を表明せざるを得ない。もっとも、この僅かな人数では記名が無くてもそのうちバレるだろうが。
しかしこの懸念は黙殺され、
「おもしろいじゃない」と、まとめ先輩に言い切られてしまった。もはややけくそか?
「まだ疑問があるんですけど」と安達さん。追撃か?
「どうぞ」とまとめ先輩。
「一位の人物が総得票数の過半数を超えなかったらどうなるんです? 過半数超えの4票なら文句なしですけど、理屈の上では3票でもトップになる可能性がありますが」
「そうね。そこはもちろん過半数を超えないと大半の支持を得たとは言えないわよね」
「ではその時は上位二名による決選投票とかですか?」
「そ、うねっ!」
センパイっどんどん押されてます! 栗田艦隊がどーとか言ってたんだから当然対応できるんですよねっ⁉
「徳大寺さんっ」とまとめ先輩。
「はいっ」と思わず(?)〝良いお返事〟をしてしまう徳大寺さん。
「コピー用紙一枚職員室から持ってきて、投票用紙作るから」
まとめ先輩……会長(予定だけど)を顎で使ってるなぁ。
徳大寺さんが持ってきたA4のコピー用紙は八等分され、うち七枚が投票用紙になり残りの一枚はくしゃくしゃに丸められてゴミ箱に捨てられた。投票箱は応接室にあった口の広めの空っぽの花瓶。その花瓶が乗っている古いサイドボードが投票台。ひとりづつそこへ行き、自分の名前を投票用紙の右下隅に、会長になって欲しい人の名前をド真ん中に書いて花瓶に入れる。そういうことになった。
いよいよ投票が始まる。しかし安達さんが見ている前でごにょごにょ秘密の打ち合わせなんてできるわけない。とその矢先————
「ちょっとカズホ来て」と言って安達さんが比企さんを部屋の隅に引きずっていく。
あああっ! 安達さんと比企さんがごにょごにょ話してる。堂々と内緒話してる! 汚いっ! ズルい! でもこちら側はそれができない!
昼休みは残りが、え〜と二十一分もある。こりゃ時間切れを理由に一旦打ち切り、相談時間を確保するのも無理だ。
そして比企さんの呼称、『カズポ』にはなっていなかった。これはあくまで自分たちの流儀を押し通すという意思表示なのだろうか。
かくして投票は始まってしまった。
既にひとりずつサイドボードのところに歩いていき、そして書き始めている。もはや残された人たちはその後ろ姿を見てるしかない。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます