だい〝さんじゅういち〟わ【遂に対決⁉ 主人公今川真VS安達閑夏】
問題の放課後が来た。徳大寺さんが僕を伴い職員室に入ると、なんと安達さん達の方が先着だった。間髪入れずつかつかと安達さんが歩み寄ってくる。
「言っておくけどわたしは本来好きでもない男子とは口をききたくないんだけど」来るなりそう先制口撃を仕掛けてきた。
「そんな感じがするよ。でもなんで今日は来てくれたの?」と言って返した。さっそく始まってる応酬。
「別にあなたに誘われたわけじゃないから。そこの偉そうな名字をした彼女に頼まれたから」安達さんは徳大寺さんに目をやりながら言った。
説得工作など出たとこ勝負だ。ただ原則というものはある。それは終始一貫している。それは女子と口論しても勝てないということ。
「しかし言うことは同じことだったりするき」僕は言った。
「なに? そのヘンな喋り方?」
「土佐弁のつもり」
「バカじゃないの?」
「バカでもなんでも安達さんには新生歴史同好会の会員として名前を連ねて欲しいぜよ」
「それ、あなたに誘われているってこと?」
「いや、ワシだけじゃないき。集まっている人の『総意』じゃき」
「具体的には誰?」
「総意ぜよ」
「そう……言うつもりがないわけね、で、なぜ私があなた達といっしょになにかをするわけ?」
「なぜ?、そんなの知らんきに」
「話しにならないわね」
「ええかい? わしでさえ参加しちゅうに安達さんを除くのはおかしいと思わんかい?」
「へぇ」と安達さんはにやり顔。
「そもそもわしは安達さんに断られちゅう。なのにどういて一方で安達さんは新見さんを誘ったがじゃ?」
安達さんは無言。
「なんらかの意志を持ち『会』は造ろうと思ってたはずぜよ」
「あなた、顔に似合わず口が上手いよね」
「返事はどうなるがじゃ?」
安達さんはやや目線を上に上げ、何事かを考え中。
「いいわよ、じゃあの応接室で。まさか彼女同伴じゃないと話しができないなんて言わないわよね?」
えっ? いいのか?
「そっちこそお友だちが一緒じゃないと心細いなんて言わんろーな?」
これこそ正に土佐弁効果。なんか大物風を吹かせられる。さっと視線を流せば今川くんっ、ケンカ売ってどうするの!(たぶん)という顔を徳大寺さんがしていた。
「おもしろいわね」安達さんはそう言うと、自分で言ってちゃ世話無いが実に奇妙なふたりの組み合わせ、僕は安達さんといっしょに応接室に入っていく。安達さんによってばたりとドアが閉められた。
=======【徳大寺聖子×比企和穂@お外で待ちぼうけ】========
徳大寺聖子と比企和穂が取り残されていた。一分近くもの時間的間を挟み「ご苦労様」と徳大寺聖子が声を掛けた。
比企和穂は相変わらず困ったような顔をしたまま。返事は、無い————
徳大寺聖子は考える。
(今川くんが安達さん説得に失敗すれば安達さんとの『不平等な友情』はいつまで続いてしまうのか分からない。かといってその安達さんの手前『説得に成功して欲しい』ともおおっぴらには言えない——そんなことを考えているのかな? しかしあの今川くんとあの安達さんがお話しをしたらいったいどんな話しになるんだろう————?)
徳大寺聖子は壁の時計を見つめる。
(どれくらいかかるんだろう————)
====================================
十分ほどしかかからなかった。僕と安達さんは応接室から出た。
ふたりでなにを話したんだろう? どう結果が出たのだろう?(たぶん)と、結果を気にする様子の徳大寺さん比企さん。目をこらしている。
今安達さんはどんな顔をしているだろうと、さっと観察するとなぜか口元に僅かな微笑み。すかさず視線を逸らす。さぞ満足しただろう。僕はたぶん無表情。無表情でいるのが妥当なところだと思ったから今はそんな表情を努めてしている。これならたぶん話しの中身など分からないし読めないだろう。
「あの、どういうことになったの?」たまらず徳大寺さんが口を開いた。
「あぁ、参加してあげることになったから」安達さんが言った。
僕的には『ありがたい』と喜ぶべきところだ。だけどここは無表情を貫くのが良い。
「あの、参加なの?」比企さんが問う。
「そう」短く安達さんは答えた。
僕は改めて比企さんの顔を見る。僕のおかげ(?)でこの常態から解放されるきっかけをつかんだことが顔に出るかと思いきやおくびにも出さない。これは呆然としてるだけ? それともわざと? 後者ならこの女子は実に深謀遠慮な女子だ。
しかしあそこまで冷酷に僕を拒絶をしていた安達さんが、こう言ってはなんだけどこの僕がよく説得したもんだ。結果的とは言え。
だけどその種明かしはなるべく後回しにしたい。聞けば僕が他のみんなになんと思われることか。それに僕は基本的に僕が事前に定めた方針に忠実にやっただけだ。
『はいはい』と言っていただけなんだから。
「結果をみんなにも知らせないと」、とだけ僕は言った。
徳大寺さんはなんのリアクションも見せない。しょうがない、
「結果をみんなにも知らせないと」同じことばをもう一度繰り返した。
「はぃ?」と、ようやく徳大寺さん。なんで言われたのか分からない、といった顔をしている。なにか事態の推移が信じられないといった風。
僕は徳大寺さんの耳元で囁く。
「『暫定会長』なんだよね?」
視線を感じたと思ったら、安達さんがこっちを睨んでた。
放課後が始まって十五分ほど、なにかしらクラスの用事があったせいなのか到着が遅れていた会員達がようやく集まり始めていた。それと入れ違うように安達さんと比企さんが職員室から出て行ってしまう。なぜ出て行く? 入会に同意したっていう入会宣言はしてくれないのか? まさか気が変わってないよね? 『あくまで学校公認でなければ』と考える僕にはそれが気がかりだ。
たった今最後のひとり、まとめ先輩が到着し5人が揃った。
このタイミングしかないだろう。僕は言った。
「安達さんと比企さんの参加が決定ってことだから」と宣言した。
誰もそんな答えは予測していなかったと見え、ことばに誰も出さないが『なぜ説得できたの?』と顔に書いてあるようだ。ただし一足早くこの情報を知った徳大寺さんだけは微妙に違う顔をしている。
その徳大寺さんが「じゃあ応接室へ」と言ったとき、「今日はやめておこう」と僕が言っていた。
「どうして?」と、すかさずまとめ先輩に訊かれる。
「せっかく安達さんがその気になったのにあのふたり抜きで今集まるのは良くない」とお返事をした。これにはういのちゃんから誉められてしまったが本心は根掘り葉掘り掘り返されたくないだけだ。
しかしまとめ先輩からは、
「いったいふたりでなにを話したの?」と問い詰められてしまう。
女子ってさ、その女子本人の言うことをよく聞いてくれる男子には優しくしてくれるけど、どの女子に対しても同じようにしていたら『いいなり』って言わない?
強引に話しを切り替えた。
「今は未来ぜよ」
「歴史は過去の話しでしょうが!」とまとめ先輩に突っ込まれる。
〝部風〟というやつがある。
歴史好きの女子たちが集まって〝ほんわかのんびりお喋り部〟になると思ってたのに、そういうのを隣で聞いていてマッタリしながらそれでいて部活動をやっているという方向性を心の中のどこかで期待していたのに、サッカー部同様殺伐系になるってどうよ?
これは着いてこれない人が出てきそう。しかしそっちの方向性にしてしまったであろう張本人の僕が着いていけなかったら話しにならんぜよ。
「徳大寺さん」と声を掛ける。
「はい」
「後は薩長同盟だから!」
「え?え?」と鳩豆鉄砲な徳大寺さん。
「デハ皆さん! 急用なのでアテプレ〜ベ、オブリガ〜ド」
僕は応接室を退出していた。
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