【漫画原作】タキシードで追いかけて~傲慢CEOとの熱い恋 ― Real Love at the Lakeside ―

スイートミモザブックス

01. 美しい朝

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静かなリゾートのプチホテル。経営者の伯父夫婦とともに働くレベッカは、今日もいつもと同じ朝を迎えたはずだった。


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 漆黒の闇が少しずつ濃紺へ、さらに薄紫へと変わりはじめる。

 とがった木々のこずえがくっきり見え、やがてコテージの屋根や桟橋もはっきりしてくる。

 そうしてようやくレミ湖が姿を現す。

 朝のこの時間が一番好き。

 金のはいった淡いブラウンの目を細め、レベッカ・ポーターは濃いめに入れたミルクティーをひとくち飲んで、ほうっと息を吐いた。

 ひんやりした朝のさわやかな空気が胸に入ってくる。

 おしゃべりな小鳥もまだ目覚めておらず、にぎやかな湖の対岸もまだ静かだ。まるでこの世のすべてが自分のもののよう。空気は澄み切って、湖面も鏡のように動かない。

 朝のひととき、夢みるようにイメージの翼を広げられるこの時間はかけがえのないものだ。そして、こんな静寂を味わえるのはごく短い時間だけ。

 ぼんやりしていた湖岸の輪郭がはっきりしはじめ、人が動きだし、空気が動き、さまざまなにおいが漂いはじめる。

「さ、今日も一日のはじまりね」

 ふわりと肩にかかるやわらかな茶色の髪をまとめ、調理用の上衣をはおると、レベッカはマグカップを手に立ち上がった。


 レベッカが暮らしているのはニューヨーク郊外、ニュージャージー州の森に囲まれた美しい湖のほとりだ。ここで、伯父夫婦の経営しているプチホテル〈ラミティエ〉で働いている。

 湖の西側にある〈ラミティエ〉は、朝食とベッドを提供する客室10室の小さなB&Bだ。

 伯父がハンドメイドした家具と、伯母の美味しい手料理が人気だ。

 東側には近代的な高級リゾートホテルが立ち並び、セレブが集う第2のハンプトンを目指すという人もいるほどにぎわっている。だが、こちらの西岸は違う。

 広大な土地を伯父の一族であるポーター家が所有してきたため、あえて開発せず自然のまま維持してきた。そのため、よそでは得られない静けさがここにはある。

〈ラミティエ〉はそこにぽつんと存在している。個人経営で、このホテルを愛してくれる常連客がたくさんいて、それなりに経営は安定している。

 そろそろ今日の仕事をはじめる時間だ。

 マグカップを手に、レベッカは階下に移動した。朝の調理場は清潔で、静まり返っている。

「さてと」

 まずは朝食の準備から。オーブンに火を入れながら、レベッカは昨晩のうちに準備しておいた食材を冷蔵庫から取り出し、ピカピカに磨きあげた調理台に並べていった。

「今日も準備万端ね」

〈ラミティエ〉の朝食メニューはシンプルだ。

 近くの農家から新鮮な卵や自家製ハム・ソーセージ、パンは毎朝、焼きたてを出している。レベッカの伯母スーザンのレシピで作ったニュージャージー名産のブルーベリージャムは大人気で、パンやパンケーキ、ヨーグルトとあわせて食べる。今朝はクロワッサンとブリオッシュを焼くはずだ。

 ホワイトボードのメモを確認する。昨日の打ち合わせで、その2つを焼くことと、バゲットの残りで希望者にはフレンチトーストを出そうと決めた。あとは卵をお好みで出し、ハムとベーコンもたっぷり。緑の野菜の軽いポタージュ、コーヒーと紅茶。シンプルなグリーンサラダ。そしてもちろんブルーベリージャム。フレッシュのベリー類はヨーグルトとシリアルの横に。

 レベッカはここのブリオッシュが大好きだ。カロリーたっぷりだが、もともとスリムな体型で、一日中動きまわっているのだから、ダイエットは必要ない。


 準備がほぼととのったところで、伯母とパートのミランダが食卓の準備にあらわれた。

「おはよう、レベッカ」

「ミランダ、伯母さま、おはよう。お母さんのマナは、具合はどう?」

 ミランダは老母と二人暮らしだ。ここ数年、母マナは寝込むことも多く、数日前から風邪気味だという。

「だいぶいいと思うんですけどね、本人はもうだめだって言うんですよ。今年の冬こそおむかえが来るって言い張るんです」がっしり太った腰に手を当てて、ミランダは言った。「でもあたしには、とてもそんなふうには思えないんですよ。ゆうべだって、デザートのすぐりパイを2切れも食べてたんですから」

「まあ、それなら当分だいじょうぶそうね」

 明るい笑い声がひびきわたった。

 通いのスタッフはミランダを入れて5人。季節ごとの庭の手入れを頼んでいる老ジョージを入れれば6人。気心のしれた地元の女たちが中心で、それぞれに家庭の事情を抱えているが、〈ラミティエ〉を大きな家族のようにもり立ててくれている。

 今日のメニューを説明すると、ミランダは要領よくボードに書き出していった。

「さ、今日もおなじみさんばかりだ。みなさんの喜ぶ顔が浮かびますね」とミランダ。

「そうね。オーダーがはいったらどんどんまわしてちょうだい」

 伯母のスーザンがそう言って調理場にはいったので、レベッカは、サービス用のカフェエプロンに換えた。朝の後半は接客と片づけ担当になる。目の回るような朝食タイムのはじまりだ。

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