第1章 仮初から始める同棲生活

第1話 坂本仁、金髪碧眼美少女に出会う

 2013年、6月中旬、仁の友人である桐ケ谷ヨハンはした…


 そう、ヨハンの高校生活は最悪なものになってしまった気がして毎日が憂鬱になり、仁はそんなヨハンに「三次元より二次元の方が最高だぜ」と励ましていた。


 仁とヨハンは読書よみかき高校に入学してすぐに軽音楽部に入部し、ヨハンは牛沢うしざわという小柄のショートヘアで頬にニキビのあるけどなんだか可愛らしさがあるからという理由でヨハンは彼女に6月上旬までアプローチし、告白することを決心した。


 「俺は牛沢さんのことが初めて見た時から好きでした!付き合ってください」


 と、仁はヨハンが顔を赤らめながら自分が今牛沢への好きだという思いをありのままに伝える姿を物陰に隠れて見守っていた。


 「気持ちはうれしいんですけど私彼氏がいますのでちょっと…」


 ヨハンはあっさりと断られてしまったのだ。


 「彼氏いるのにごめんね、ただどうしても牛沢さんに気持ちを伝えたかったから」


 「あぁ、そうなんですね」


 牛沢は苦笑いでそう答え、流石にいつまでも時間をとるわけにもいかず彼女に別れの言葉を告げ、ヨハンはしょんぼりと俯きながら仁と一緒に自宅へ帰ることにしたのだ。


 帰宅してすぐに食事を済ませお風呂に入り自分の部屋でスマホの電源を開き失恋したのにどうしても牛沢のことが忘れられずヨハンはSNSで牛沢のアカウントの呟きでも見ようと牛沢のアイコンをタッチしそこには予想もできないことが呟かれていた。


 なんとそこにはヨハンの悪口がびっしりと書かれていたのだ。泊まりに来ていた仁もそれを見て眉をひそめていた。


 『今日キモイ奴に告られた、前からあなたのことが好きでしたとか笑いぐっと堪えた、イケメンなら許すけど…』等明らかにヨハンの悪口ではないかと丸分かりな内容を呟いていたのだ。


 それだけではない。


 その呟いた内容をズラーっと見てみると仁の悪口も書かれていたのだ。


 『キモイ奴の友人でリーゼント頭からロン毛に変わった男もいるんだけどあいつもマジでナルシ入っててキモイ!』


 なんてことだ…仁とヨハンは今までこんなことをSNSで平然と書き込めるモラルのない人間に好意を寄せてたというのかと思い…「許さねえ、こいつは絶対死んでも許さねえ!」と殺意を沸かせていた。


 仁とヨハンは牛沢が呟いた悪口を全てスクリーンショットでスマホに保存した。


 翌日、仁とヨハンは昨日のことが気になりすぎて眠気が全くなかった為寝不足気味だ、失恋のショックより悪口を書かれたことへの憎悪がいっぱいで今夜は安眠できず、眠れたのは約2~3時間程度だった。


 いつものように食パンを1枚口に加え玄関を出て自転車に乗りいつもの通学路を勢いよく通り、校門を潜り下駄箱で上履きに履き替え牛沢のいる教室にずかずかと足音を立てながらすぐ向かい、そこには牛沢がいて同じクラスの女子達とゲラゲラ笑いながら会話をしていた。


 「昨日さぁ、同じ部活のヨハンに告白されたんだけどさぁ、マジでキモかったわ」


 「昨日がキリガヤでこの前がサカモトだっけ?あの二人キモいよね~」


 「それな」


 やはり牛沢はクラスメイトに二人の悪口を言いふらしていた。


 「オイ、昨日のSNSで呟いていたあの悪口はどういうことだ?」


 「はっ?そのままのこと言ったに決まってるじゃん、そもそもキモイ奴に告られて不快にならない奴なんているの?」


 「じゃあ今まで俺に優しく接してたのはどういうことだよ!?」


 「え!?もしかして本気にしてたの?男って軽く優しくしたりしただけでこうなるからマジ受けるぅ~」


 牛沢はヨハンにそう言いながら嘲笑う。当然、仁も黙ってはいなかった。


 「お前はそうやって今までも他の男にもそんなゲスなことをしてたのか?」


 「当たり前じゃん、色んな男を誑かすのマジ最高だし」


 「牛沢、人間は…ゲームのCPUでもプレイヤーでもないんだぞぉ!」


 ヨハンはそう言いながら右手で思いっきり牛沢の顔面を殴り、倒れ込んだ牛沢の蹴り、髪の毛を引っ張り、馬乗りして顔面をタコ殴りし、ヨハンは必要以上にぶちのめしていた。


 殴り終えた後、ヨハンは理性が戻り辺りは血だらけになっており、牛沢と一緒にヨハンと仁を罵っていたクラスメイトの女子も床に倒れこんでいた。


 ラノベやアニメでよくある破壊を望む心がそうさせているとでも言うべきであろうか、ヨハンは血だらけになった両手を見つめそう思った。


 女子に暴力を振るったことにより停学、又は退学処分になると思っていたが昨日スクリーンショットで保存してた牛沢のヨハンと仁への悪口の画像を仲間たちに事前に送信していたことにより、処分を免れることができたが、学校中の生徒達のヨハンと仁を見る目は化け物を見ているかのようで見つめていた。


 桐ヶ谷きりがやヨハン、名前からしてハーフと間違われることはあるけど実はドイツ系アメリカ人で日本人の血は一滴も流れてはおらず、ヨハンが赤ン坊の頃に両親が事故で亡くなりヨハンの両親の友人である桐ヶ谷家が養子にしてくれたそうだ。


 一応日本国籍を取得してはいるようで、ヨハン自身日本で育ってるから日本人として生活している。


 坂本じんはヨハンと同じ軽音部の部員でヨハンが牛沢を病院送りにした後、仁もヨハンが牛沢に告白する以前にあいつの被害に合っていたことと一緒にいたことで後ろめたさを感じていた。


 しかし、仁にとっては今になて始まったことではなかった。


 仁は幼少期に福岡県から東京へと親の仕事の都合で移り、博多弁交じりに喋っていることを揶揄われ悩み苦しんでいた。高校になってからはそれを個性と主張して博多弁で喋っている。


 「まぁ、ヨハンが殴らんかったら俺があいつを殴ったかもしれんねぇ」


 「だが、俺があいつを殴ったおかげでお前は咎められなかったじゃん?」


 「それでも友達が他人を傷つけたところば一緒に見よったって理由だけで先公も一方的に俺達ば悪者にしよったんは納得いかんくさ!」


 「高校入ってお前の博多弁よく分からなったが今ならなんとなくだが分かるようになった」


 そうこうしているうちに数日が経ち、ヨハンと仁のクラスに留学生がやってくる事になったのだ。


 「今日からお前達の仲間になる生徒だから仲良くするように」


 担任はその一言を言い終え留学生に自己紹介するように目で相槌を打った。


 「ハジメマシテ、ワタシはエミリー・メイとイイマス、イギリスから来ましたのでニホンゴまだまだイマイチデスケドよろしくお願いします」


 エミリー・メイ、それは決してハリウッド女優のような美人というよりアニメやラノベに出てくるような艶やかな金色のツインテールをした萌え系の美少女のような容姿をしており、身長は159センチくらいでバストサイズはCカップ程度だ。留学生とは言っても実際には中学2年辺りには日本に来ているので留学生というのが正しいのかは分からないが、肩書きはそういうことになってるようだ。


 普通ならここでヒューヒューと黄色い声援が聴こえてもいいのだが寧ろ辺りはどんよりとざわめいた空気が漂っており、エミリーを歓迎しようと思うものは誰一人いなかった。


 仁とヨハンを除くなら…エミリーはまるで二次元から飛び出してきたのかと錯覚しそうになるような超絶美女だから。


 「あの髪の長い男子の隣の席に座って」


 と担任に言われ仁ではなくてヨハンの隣にエミリーが着席した。


 「ヨロシクオネガイシマス」


 とエミリーは片言ながらニコッと笑みを浮かべヨハンに挨拶をしてくれた。


 「…ああ、よろしく」


 その一言だけ言い返してヨハンはすぐに目を逸らした。


 仁達の担任の童夢は、あまり好印象的ではなかった。


 入学式前に新入生が教科書とか制服を取りに行かなきゃいけなくて、そこで担任になる蛇顔の童夢は「今日からお前達の~」と自己紹介をしてなんだか高圧的で子供の仁達からしたら嫌な大人の一人だった。


 お前?初対面の人間に普通お前て言う教師なんて初めてだよ、いきなりお前呼ばわりするような奴が担任とかマジありえない、仁達は嫌悪感でいっぱいになっていた。


 そしてまた別の日、教室の扉がガラガラと開きそこには金髪碧眼のバイク用のゴーグルを頭に乗せていた美男子が現れたのだ。


 彼の姿を見た瞬間、女子の目はハート状態になり彼のとりことなってしまったのだ。男子に関しては「ハンサムじゃねえか」とふむふむと頷いていた。


 「えっと、自己紹介してもらっていいか?」


 「綾野ジョーだ、よろしく…」


 綾野ジョーと名乗った男はポーカーフェイスで自己紹介を済ませ、なんとまあクールビューティーな男子だとヨハンは思い仁はその名前を聞き嘘だ!と言った表情で驚いていた。


 「えっ、アヤノジョー?」


 エミリーは小声でそう言いながら瞳孔が開き、驚きを隠せないでいた。


 「それじゃあ綾野君、あの金髪の女子の横の席に座ってもらってもいいかな?綾野君はあの綾野ゆうさんのお兄さんだそうです」


 すると席に座っていたクラスメイト達がえっ!と一斉に声をあげる。綾野ジョー本人は一体何が起こっているのか分からないでいた。兎にも角にも綾野ジョーはコクッと頷きながらさらっとエミリーの横の席へと座り込んだ。


 「顔に何かついているかな?」


 エミリーに気付いた綾野ジョーは彼女の方を見ながら質問をした。


 「えっ、いえ…何でもないデス…」


 エミリーはジョーを見た途端頬を赤らめていた。


 もしかして一目惚れって奴か?それにしてはなんだか様子がおかしいがまあ細かいことをいちいち気にしていてもしょうがないとヨハンは気にもしていない様子で、仁は疑り深くジョーを凝視していた。


 放課後、仁は侑とジョーを屋上へと呼び出していた。そして何故かエミリーも一緒にいたのだ


 「なあ、お前は綾野ジョーと言っていたが丈とは……ジョセフ・ジョーンズとはどういう関係なんだ?」


 仁は真剣な眼差しでジョーに何者なのかを尋ねる。


 「信じてくれるかは分からないが僕はジョセフ・ジョーンズの孫なんだ……とある出来事から祖父の過去の世界へと転移してしまい今こうやって祖父の名を借りて学校生活を送っている。ちなみに君達で言うところの異世界では魔法が使えたけどこの世界では魔法の類は使えなくなっている」


 ジョーは侑が執筆している小説の内容をそのまま話しているようで信憑性に欠けている部分があったが信じるしかなかった。


 「あなたは私の知っている丈君ではないってことデスネ……そして丈君のお孫さん……」


 エミリーは泣き崩れながら両手で顔を覆う。


 「はい、祖父の記した日記によるとエミリーさん、祖父はあなたがいなくなった後に他の女の子を好きになって失恋したのはエミリー以外の女の子に告白した天罰だろうと後悔していたようです。しかし祖父はこことは違う世界でエミリーさんに類似している女性と結婚できたらしいのでその辺りで心も軽くなったようです」


 「ジョー、少し話が長すぎるわよ?まぁ一言で言うなら『エミリーにもし再会できたならごめんって言ってくれないか?』と言っていたわ」


 黒髪ロングの清楚系巨乳美女の侑がエミリーにジョセフの言葉を代弁する。


 「エミリーさん、僕は祖父の代わりになれるかは分かりませんけどこのことは内密にしてもらっていいですか?それと仁君もいいかな?」


 「分かりました……」


 エミリーは涙を拭いながら頷く。


 「言わねえよ。お前が丈の孫かどうかは別としてよ、このサングラスはお前の祖父のやけん、だからこれは孫であるお前に返すよ……」


 「いや、これは祖父が君に託したものだろう?僕よりも祖父の親友である君に持っていてほしい」


 ジョーは微笑を浮かべながら仁に祖父であるジョセフのサングラスを持っていてほしいと説く。


 「その笑い方、本当に丈の孫なんだな……」


 仁は溜め息を吐きつつもジョーにかつて親友だった綾野丈の面影を重ねながらサングラスの中から涙が零れていた。

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