第3話



この国の第二王子殿下であるアーノルドは兄である王太子殿下と並び、大変優秀な方だと学園に入学する前から噂になっていた。


しかし、王太子殿下にはすでに婚約者がいらっしゃるのにもかかわらず第二王子のアーノルドの婚約者はまだ正式に発表されていなかった。

そこで俄然、婚約者の決まっていないご令嬢の方々がその座を射止めようと張り切ったのは言うまでもない。

レーナの場合はもうその時すでにイーサンという婚約者がいたのでアーノルドの話で盛り上がっている友人たちの話を聞き役として聞いていただけだった。


入学式で見かけたアーノルドは、高身長で体格もガッチリとしてそれだけでも威圧感があった。アッシュグレイのやや癖のある髪は軽く後ろに撫でつけられて、顔は整ってはいる方だがその目は切れ長で鋭い眼光から威圧感が溢れ出ていた。


そしてそのアーノルドに入学式の日に何故か初めて会ったのにも関わらず突然、話しかけられた。


「レ、レーナ嬢! 今日からよろしく頼む!!」


「はっはいい、よろしくお願いいたします!」


いきなり名指しで呼ばれてアーノルドの鋭い眼光に睨まれながらの鬼気迫る挨拶にレーナはすっかり委縮してしまった。

元来、真面目で気の小さいレーナだった為、王族に名を覚えられるほど何かしてしまったのかと思ったのだ。

いや、もしかしたら優秀だと聞き及んでいるアーノルドの事だクラス全員の名前を把握しているのかもしれないと思ったが、学園での三年間で他の生徒には「君」とか「そこにいる女子」とかしか聞いたことがなかった。


そしてなぜかこの三年間、アーノルドとは席がずっと隣同士だった。席替えは学期毎に行われていたのだが、別の席になっても次の日にアーノルドの隣になったクラスメイトから「頼むから席を代わってほしい!!」と男女問わずに言ってくるのだ。レーナだって本当は断りたかった。しかし、たまたまクラスメイトとそのやり取りをアーノルドに聞かれてしまい。


「俺の隣に座るのは嫌なのか?」


とクラスメイトではなく、レーナの方を捨てられた子犬のような目で言われると否という事はできなくなってしまった。

そんなこともあり、授業のパートナーでも必ずアーノルドと組むことになるのだった。極めつけはアーノルドが生徒会長となったときに指名でレーナが副会長になった。「レーナとは気心が知れているからな」と言われて「是非、俺の力になって欲しい」とあの目力で頼まれて断ることが出来なかった……。


押しが強いのかと思えば、レーナに婚約者がいるのを知っているのか適した距離感を保っている。レーナにとってアーノルドは何を考えているのかわからない不思議な人だった。


そのアーノルドが、今まさにレーナに殴りかかろうとしていたイーサンの腕を捕まえて制した。

誰も助けてくれないと思っていたこの状況でレーナにとってまさにアーノルドは救世主のように見えたのだった。



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