宮殿

 女は物心ついたときから、ふしぎな夢を見続けていた。

 夢の中に同じ宮殿が出続けるのである。

 宮殿で彼女は何不自由なく、思いのままにひと時を過ごした。彼女の気分によって毎日変わる、すばらしい内装。現実では食べることのできない、料理やお菓子の数々。テレビの中のアイドルや俳優では太刀打ちできない、すてきな王子。その王子がささやき続ける甘い言葉。


 女は適齢期になっても結婚しなかった。平凡な職に就き、平凡な生活を送った。夢の世界でまどろむ時間をだれにも邪魔されたくなかったのだ。


 孤独な老婆の最後を看取ったのは、病院の看護師であった。

 女がうめき声を上げながら、最後の言葉を吐いた。

「私の、私の宮殿が崩れていく」

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