星の器

亜未田久志

第1話 拷問と出会い


「いてぇ……いてぇよお……」


 男の泣き声がコンクリートの建物に響く。片耳を無くした男。前にはその元凶たる刃物を持った男。


「なぁ、知ってんだろ? 星の器の行方? 早く教えろよ~、じゃないと次は目くりぬくぜ?」

吉比斗よしひと、そこまでにしておけ、やり過ぎると死ぬ」


 刃物を持った男のさらに後ろ、そこにもスーツ姿の男が一人居た。


「えー、七夜ななやー。俺はもっと遊びたいんだよー」

「ひぃ、ひぃ、知らねぇ、本当に知らねぇんだ!」

「お前が星の器の世話係だった事は調べてある、さっさと話せ」


 七夜と呼ばれた男が言う。


「俺はただの庭師だ! お嬢様とあった事すらねぇ!」

「ほんとかー? 目ぇいっとくかー?」


 そこで七夜の携帯に連絡が入る。

 何やら話し込むスーツの男、シャツとジーンズの吉比斗はつまらなさそうに刃物をプラプラさせた。


「――分かった。どうやらそいつは本当に知らないらしい、

「やたっ!」

「ひぃ!?」


 男の悲鳴がコンクリートの廃墟に響き渡った。


 場所は変わって横浜中華街。


「アレが食べたい」

「ウツワ、さっきアメリカンドッグ食ったばかりでしょうが」

「食べたいのじゃ!」


 ウツワと呼ばれた銀髪碧眼の少女がくわっと目を見開いて言う、


「……すいません、肉まん一つ」

「はいよ」


 店の主とやり取りして、少年はウツワに肉まんを渡した。

 さっそくほおばるウツワ。嬉しそうに頬を膨らませてほおばっている。


「美味美味! 苦しゅうないぞホシミチ」

星路せいじだっつってんだろ!」

「そうじゃったかの」


 しらばっくれるウツワ、銀髪が揺れる。

 そんな二人の前に、突如、白髪にローブ姿の少年が現れる。

 星路とウツワは、片やパーカーにカーゴパンツ、片や、ワンピース。

 中華街には似合わないローブ姿の少年に驚く二人。


「その恰好、星滅教団の者か?」

「いいえ、違います主様、私達は星の欠片、その代理人でございます」

「……毎度毎度、現れ方が心臓に悪いんだよな」


 星路が頭を掻く。ウツワはホッとした様子で。


「我とて星の代理人、お主らの主ではないぞ?」

「それで構わないのです。今はまだ。それよりもくだんの星滅教団ですが、主様の位置を特定したご様子」

「!? まだ横浜中華街に行った事は誰も知らないはず!」

「ええ、今いる家がバレたのです。急いで東京のセカンドハウスまでお逃げになられた方がいいかと」

「東京!?」


 目を輝かせるウツワ。


「ああ、クソ田舎から場所を転々として来て幾星霜……いよいよ新都、東京に進出か!」

「新都て」


 呆れる星路。


「行くぞホシミチ! 疾く行くぞ!」

「おいおいおいまだ横浜着いたばっか!? ってどこ行くんだバカ!」

「それではまたいつか」


 ローブ姿の少年は掻き消える。

 駆け出している少年少女。


 場所は神奈川県某所に移る。


「はー……移動って疲れるね……でも此処に星の器いるんだろ? どう殺そうかな?」

「星の器はすぐに殺す、それが我々、星滅教団の目的だ」

「七夜は堅っ苦しいなぁ」


 二人の男は大きな洋館にたどり着く。まるで教会のような佇まいだった。


「此処かぁ、如何にもって感じ」

「行くぞ」


 そこにカキン! という音が鳴る。

 金属が、庭石を砕いた音だ、後からガラガラと岩の崩れる音がする。そしてその音の発信源の吉比斗に何かが迫る。


「おっと!」


 ナイフで棍棒を受け止める吉比斗。棍棒の主はだった。


「ブラフとはやるね、メイドさん!」

「ウツワ様を殺させはしません!」

「ビンゴだったという訳だ」


 銃を取り出す七夜、動じないメイド。棍棒とナイフの打ち合いが続く。一進一退の攻防、時に棍棒が吉比斗の頭をかすめ、時にナイフがメイドの首をかすめる。一撃喰らえば終わり、そんな戦い。長ナイフと言えど、真の長物である棍棒にはリーチで負ける。そこに。


「星に願いを。今叶えたまえ!」


 メイドに

 棍棒の威力が増す。ナイフが押される。


「噂の願掛け術式か! ウザったいなぁ!」


 楽しそうに笑う吉比斗。二人の距離が近すぎるため誤射を恐れて慎重になっている七夜。そのままメイドが棍棒で押していく。


「あなた方は! 此処で死んでもらいます!」

「殺すって言えよ!」


 吉比斗は高笑いをする、もう一本ナイフを取り出す。

 己の腹を突き刺す。


「代償術式……術式はあんたらの専売特許じゃねぇって事だ!」


 吉比斗は重傷を負ったにもかかわらずパワーとスピードが増していた。今度はメイドが押される。


「そんな……!」

「殺す……!」


 その時だった。

 洋館が

 極光と轟音に飲まれる三人。

 行方知れずとなる。


 視点を横浜に戻そう。


「……逝ったか」

「おい、まさか明花めいかさんが?」

「敵はそうとうの使い手らしい、覚悟決めろよホシミチ」

「……星路せいじだっての」


 二人は駅に着いていた、東京へ向かうために。

 切符を買って、いざ行かん。大都会、東京。

 そう思っていた。


 しばらくして。


「此処どこじゃ!? ド田舎じゃないか!」

「言ったらバレる、誰に聞かれてるか分からん、都内某所だ」


 23区内では無かったのは確かだ。

 がっくり肩を落とすウツワ。やれやれと首を振る星路。

 二人はセカンドハウスにたどり着く、平屋建ての屋敷だった。和の家だ。


「今度は日本式か、なんか懐かしいな」

「嫌じゃ嫌じゃ! 渋谷行きたい! 109! 109!」

「わがまま言うな」

「あ、あとアキバも行きたい、ラジ館」

「もうない」


 泣き出すウツワ、屋敷から人が出てくる。


「お待ちしておりましたウツワ様、星路様、わたくし、明乃あけのと申します」

「!? 明花さんそっくり!?」

「双子か、じゃあ言わずとも分かっとるな」

「はい……明花はもう……」


 沈鬱とした空気になる屋敷、柏手を打つ明乃。


「こんなんじゃあの子が報われません! 明るく行きましょう! 明乃だけに!」


 沈黙は続いた。


「……明乃だけに」


 沈黙は続いた。


「……えぐっ、ひぐっ、明乃だけに……!」

「もう分かりましたから泣かないで下さい!?」

「妹が死んだんじゃ、泣かせてやらんかホシミチ」

「……なんかもう、大丈夫かなぁ」


 自分でウツワを守れるだろうか、そんな心配を星路はしていたのだった。

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