第62話 8-5
その日の午後は普段通り何事もなく仕事を終え、帰る支度をしている俺を隣の席の蓮見さんがつついて、顎でフロア入り口を指し「あっちを見ろ」と示した。
見れば、俺たちの視線に気づいた平坂さんが、女子社員に人気の営業部の白川さんを連れ立って笑顔で帰っていくところだった。
・・・まじか・・・
白川さん、めちゃくちゃ爽やかだし、教え方も上手くて俺陰ながら尊敬してたんだけどな・・・いや、平坂さんとの仲がどうとかではなく・・・ぶっちゃければそうだったというのが衝撃だったんだけど!
だって、ノンケだったとしたら、そっちにハマるくらい平坂さんが上手かったってことで・・・
「・・・明日休みでよかった・・・俺、土日でどうにかメンタルのメンテしてきます。」
俺は残っていた缶コーヒーを飲み干し、空き缶を捨てるべく立ち上がった。
フロアにいる面々が皆、『あの人も・・・?いや、あの人も・・・?!まさか・・・あの人も?!』と顔を合わす度にそう見えてきて、ある意味、バリタチ平坂の呪いともいえる状態。
「・・・はぁ・・・まじかよ・・・」
誰もいない給湯室。
心ここに在らずで仕事を片付けた午後。
「お疲れ。」
「!なッ、なんッ!」
俺は驚きすぎて口から魂が出るかと思うほど跳ね上がった。
「か、かえッ、ったんじゃ・・・!」
「策士だろ?俺が帰ったと見せかければ、お前は来ると思ったからな。いつも給湯室に立ち寄っているから。」
営業部のホープと帰ったはずの平坂さんが、俺をシンクと自分の間にサンドして、両手をついた。
背中に触れる硬い胸、肩に乗る顎、
ちゅ・・・
「!!」
な・・・な・・・みみッ・・・!
耳に触れた唇。
「忽那が一番好みだって言ったのはぃ嘘じゃないから。」
「・・・そん・・・な、こと・・・俺は、はすみ、さんのことが・・・」
「・・・・・・蓮見だけである必要あるのか?幸運にも、お前は
この人・・・イカれてる・・・
少なからず信頼していた上司であった人が、スラックスの上から俺の股間を撫で、ジッパーを摘まんでいる。
ジ・・・
会社でこんな事をされる恐怖と、うなじから首筋にかかる吐息が・・・
ドンッ!!
「・・・ッ・・・はぁ・・・ハァ・・・やめて、ください・・・」
いやだ・・・いやだ・・・いやだいやいだいやだ・・・!!
「すまない、性急すぎた。」
そういうことじゃない!
やっぱりこの人変だ!!
「・・・失礼、します・・・」
俺は乱された服を直し、フロアに戻ると、「どうしたの?」と声を掛けてきた蓮見さんを見ることも出来ず、「すいません、お先します」とだけ伝えて会社を後にした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。