第59話 8-2



「蓮見、ちょっといいか?」


蓮見さんと午後の会議の打ち合わせをしていたところに邪魔をしに来た平坂さん。


なんだよ、ほらまた俺の事睨んでんじゃん。


言っとくけどなぁ、俺と蓮見さんは清い関係なんだぞ、一緒に寝たし、手もつないだし、撫でられて身体にも触れてもらったけど、まだ健全で清い関係なんだ!!


・・・・・・複雑だけど・・・・・・。



でも、フロア内に打ち合わせブースがあるのに、わざわざフロア外に蓮見さんを連れ出す平坂さんは、フロアとの仕切りがガラス張りの廊下をエレベーターの方向へ歩いて行く。


え・・・なんだよ、そんな連れ出す??


「ちょっと休憩してて」


といなくなった蓮見さんの言葉通り休憩なんてしてられるわけあるか。



俺は周りに怪しまれないように2人の後をつけた。



エレベーターが止まっているのは倉庫がある階。



そんな、倉庫なんて・・・!やましさしかねぇじゃん!給湯室とか倉庫とか資料室とか!!そういう部屋で何があるかなんて決まってんだよ!!



俺の頭の中では、昼ドラ並みに「あ・・・やめてください平坂さん・・・私平坂さんのこと信頼してたのにッ」「俺はずっと、蓮見の事可愛いと思ってたよ・・・恋愛対象として・・・」なんて・・・!!なぁぁぁんてこった!!


薄暗い倉庫内、無機質な冷たい金属素材の棚に棚ドンされる蓮見さん・・・!!



ダメダメダメダメ!!


頭の中からいかがわしい2人を追い出し、俺は倉庫へと走った。




シンとしたエレベーターホールに響く靴音。


使用許可を取っていなければ入れない倉庫には、製品化される前のサンプル品や、納品前の製品、海外から取り寄せた様々な素材が所狭しと保管されている。


この中で蓮見さんは・・・ッ



そっと開いた扉・・・覗いて見える場所にいた2人は、俺の妄想のように密着してはいなかったし、棚ドンもされてなかった。


少し距離があるから全部は聞き取れないけど、集中して耳をすばせば、先日の仙台出張の時にラブホに泊まった事について話をしているようで、



「本当にラブホに泊まって何もなかったのか?」


「何もありませんよ、平坂さん・・・私が男嫌いなの知ってるでしょう?」


「・・・知っているが・・・それでも今までの蓮見なら、男と泊まるなんてなかったじゃないか!」


「落ち着いて下さい。私と忽那君は何もありませんよ。」


・・・何もない。


その言葉にズキッと胸が痛む。


何もないわけじゃない・・・前よりは近い距離になったはずだ。



「・・・俺は・・・上手くやってきたつもりだ・・・」


「・・・まぁ、そうですね・・・?」


「それならなぜ・・・!なぜ忽那だけ・・・!特別なのか?!」


「・・・特別とか特別じゃないとか・・・そういう話ではなく・・・」


「なぁ、蓮見・・・」


「・・・・・・平坂、さん・・・?」


全く話は読めないが、いつもポーカーフェイスの平坂さんが珍しく感情的になって蓮見さんに詰め寄る。


ダメだ!!棚ドンなんてさせない!!



「蓮見さん!!」



「!?忽那くん?!なんで?!」



俺は蓮見さんの手首を掴む平坂さんの手を払い、蓮見さんを背に2人の間に立った。

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