第3話 2-1:Don't approach.

「蓮見さん、ねぇ蓮見さん」


「うるさい、黙って。」


「可愛いなぁ、蓮見さん」


えへへと俺が笑えば、


「・・・うざ・・・」


「蓮見さん、怖い顔しても可愛いだけですよ、あと、ここ誤字ってたので、修正しておきました。」


「!!?」


入社5日目。


先輩の蓮見さんを構いたくて仕方のない俺と、入社初日のビンタの効果が無いと感じてイライラしている蓮見さん。


・・・可愛い。


今日は、白いシャツに黒のパンツにメガネ。


メガネいい。

昨日はコンタクトだったのか。

エロい感じがいい。


童顔なんだなと思ったけど、なんかエロさを感じるこの感じ、すごくいい。


隣のデスクでチラ見をすれば、睨まれるけど、それもいい。


Mじゃないけど、冷たくされるこの感じも悪くない。

Sじゃないけど、嫌がってる蓮見さんにちょっかい掛けるのも悪くない。


ま、どっちでもいいけど・・・違う表情も見たくなるよね。


ドキドキ・・・


「蓮見さん、ここ聞いてもいいですか?」


「・・・どこ?」


椅子を滑らせて俺の横に付くと、ひとすじ下がった前髪を耳にかけて、その瞳は入力途中の画面と資料を行ったり来たりする。

ちょっかいをかければウザそうにするのに、仕事に関しては切り替えてきちんとしている感じ、すごくいい。


今日はオフィス内に人が少ない。

外回りや来客中、子供が急に体調を崩して欠勤などで、蓮見さん、俺、離れたデスクに平坂さん、今から取引先に向かう準備をしている男の先輩、それだけしかいない。


淡いピンクの口紅を塗った薄い小さな唇が動き、蓮見さんが何か呟く度に光を纏って動く。


「ねぇ、ちょっと、説明してるのに聞いてる?」


「あ、すいません・・・蓮見さん(の唇)見てて聞いてなかったです」


「・・・バカなの?そういうところ、本当に嫌い。」


「嘘です、蓮見さんの唇見てたけど、聞いてましたよ」


「・・・ねぇ、1回死んだほうがいいんじゃない?」


これまでにないほどうんざりした顔をして、眉間に皺を寄せて、距離だって近いのに今更気づいて離れて。


・・・ほら、その顔、可愛すぎるんだよね。


蓮見さんを見てみられる1日が終わってしまう。


そのもの悲しさを抱いて俺は今日も会社を後にした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る