キミを好きな僕と僕を嫌いなキミ

ほむら はる

第1話 1-1:fast contact

忽那くつなくん、君に付いて教えてくれるのは、君より2年先輩の蓮見 綾はすみりょうくんだ。

少し気難しい所もあるが、きっちり仕事をこなす、うちの期待の子でね・・・」


1歩先を歩きながら、配属部署へと俺を連れ立って歩く人事担当者。

教えてくれる先輩が「はすみりょう」ということだけは頭に刻み、俺は適当な相槌と愛想笑いを浮かべながら、その後に続いた。


白い壁に白い廊下、無機質な作りのオフィスにはまだ新築らしい匂いが漂う。


「さあ、ここだ」


軽いノックのあと、開かれたオフィスにはざっと10人程の社員がいた。

白を基調とした室内は大きなガラス張りになっていて、外からの光を取り込み光で満ちている。


「明るいオフィスだろう、うちは社員が快適に仕事をできる環境作りを大切にしているから、社内の施設や、寮、福利厚生なんかも充実しているんだ」


人事担当者は誇らしそうに、満足そうに笑った。


「みんな、ちょっと手を止めてくれるかな。」


その声に、パソコンのキーボードを叩く手が止まり、一瞬の静寂が訪れる。


「今日からうちで働く、忽那透真くんだ。」


「忽那透真です、よろしくお願いします。」


「教育担当は蓮見くん、よろしく頼むよ。」


その声に、反応して1歩進み出てきたのは。


え・・・おん、な・・・?


人事担当者からの紹介で「はすみりょう」、名前だけで男だと判断していた俺は、それが表情に出たようだった。


「・・・蓮見綾、あやって書いてりょう。女でごめんね?」


にっこりと笑うその裏には、明らかな「不機嫌」が浮かんでいた。


ひんやりとした空気を打ち消したのは、ガラス張りの窓を背にデスクに座っていた、長身のスラっとした男。


「こら、蓮見、挨拶早々噛みつくな。」


インテリなメガネをかけ、髪型からスーツ、磨かれた革靴には傷などもなく「仕事ができる男」を体現しているこの男は、ゆったりと俺に近づき人事担当者から引き継ぐと、他の社員に仕事を再開させて、いまだ冷たい目をしている蓮見さんを呼び寄せた。


「すまないな、蓮見が。」


「なっ・・・平坂さんっ」


「俺は平坂英智ひらさかえいち、蓮見と君の上司に当たる。蓮見はまぁ・・・ちょっと気難しいが、悪い奴じゃないんだ。感情が出やすいだけで。」


平坂さんは蓮見さんのフォローをしつつも、楽しそうな表情をする。

それは俺の中のアンテナに微妙に引っ掛かり、「男女の感情」をキャッチしてしまう。

だが、その感情を抱いているのは平坂さんだけのようだ。

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