第13話 メタル斬り


 今度のメタルはリザードマン。

 森林に生息しているのは珍しくもない魔物だが、金属の身体が森の中では異様に浮いていた。

 長い間逃げていたのか少女はボロボロだった。

 必死の形相で俺の方向へ走ってきている。


「お願いしますっ! 助けてっ!」

「断る!」


 俺は即座に拒否すると、踵を返して走り出した。

 もう面倒事に巻き込まれるのはごめんだ。

 こういう時はさっさと逃げるに限る。

 他人が死ぬかどうかなんてもう知ったことか。


「ま、待ってくださいっ!」


 俺は木々を縫い少女に背を向け、斜めに走った。

 だが少女はまっすぐ逃げず、俺を追ってくる。


「おい! こっちに来るな!」

「た、たすけてぇっ!」


 藁にもすがる思いなのか、少女は俺についてきた。

 突如として、背後から何かの気配を感じた。

 俺は瞬時に横へと回避する。

 俺のいた場所に曲刀が通り、正面の木に突き刺さった。


「シュルルル」


 リザードマンが金属の舌をギギギと鳴らしながら動かしている。

 すでに俺も標的に入っているらしい。

 仕方ない。

 俺は体重を後ろに傾けると同時に振り返る。

 斜めになりつつ、勢いを殺すと即座に反転し、銀の小手を鞭に変形。

 近くの木に巻き付けると共に、少女の頭上を飛び越えてリザードマンへと飛びかかった。


「はひゃっ!?」


 奇妙な声を上げて俺を見上げる少女を無視して、俺は小手を槍に変形。

 丁度いい、いろいろ試すか。

 俺の動きにメタルリザードマンたちは対応できない。

 俺は腰を捻り槍を両手でつかむと、そのまま先頭のメタルリザードマンを横撫で斬りにした。

 相手は金属。当然、通常武器の攻撃は効かない。

 だが、俺はメタルリザードマンに槍が触れる寸前で流れるように魔力を伝達。

 物体を介しての魔力伝達は非効率だが、直接触れずに済む。

 効果は強くはないが、果たして。

 結果。

 槍の刀身がメタルリザードマンの首を綺麗に寸断する。

 

 【刀身の鋭さ×速度×魔力によるメタルの軟化=メタル斬り】


 なるほど。伝達する魔力量が少なくとも、武器としての威力があればメタルを寸断することは可能、ということか。

 ただこれはドラゴンのように巨躯な相手には通じないだろう。

 相手の肉体を破壊する魔力量が足らないからな。

 だが小型のメタルに通じることはわかった。

 これなら。

 残りのメタルリザードマンたちが剣で攻撃してくる。

 しかし俺は即座に距離を取り、再び銀の鞭を生み出し、薙ぎ払う。

 残りの二体のメタルリザードマンを鞭で巻き付けた――のだが。

 俺は鞭の拘束から逃れようとしているメタルリザードマンを見ながら、首を傾げた。


 寸断するつもりだったんだが……魔力量が足らなかったか?

 いや速度がありすぎて魔力伝達が間に合ってなかった、というのが正しそうだな。

 それともやはり武器の鋭利さが重要なのだろうか。

 まあいいか。

 俺は鞭に魔力を込めて、メタルリザードマンたちを破壊した。

 メタルは金属。血が流れないためか嫌悪感が少ない。

 まあ、魔物や人間相手に戦った経験もそれなりにあるから、普通の魔物でも容赦はしないけど。


「武器を使っての金属魔術は研究が必要だな。直接触れた方が威力は高いが危険だし。

 以前戦ったドラゴンは動きが鈍かったし、近くに来てくれたからな。

 ブレスをされたら終わりだ。それに多対一の戦いではより効率的な――」


 ぶつぶつと独り言を漏らす俺の横で、いつの間にか寄ってきた少女がおびえていた。

 すっかり忘れていた。

 いかんな。いつも金属魔術の研究や調査を一人でやっていたから、つい分析してしまう。

 それはそれとして。

 この少女を助ける気はなかったが、結果的にそうなってしまった。

 さてどうするか。

 助けた礼を要求するか、それとも立ち去るか。

 正直、人助けをタダでするようなことはもうする気はない。

 善人ほどバカを見るし、人のために生きることの無意味さを俺はもう知っている。

 しかし、他人に関わると面倒だ。

 特に、何かこの少女とは関わらない方がいいような気がした。

 今まで人にバカにされ、見下され、利用されて来た俺だからこそ感じる何かがあった。

 そもそも指名手配されているだろうし。

 だからこうする。


「助かってよかったな、じゃ!」


 俺は逃げようと踵を返し――たのに、腕をつかまれてしまった。


「うえぇっ! こ、怖かったですぅ……うわあああんっ!」


 ぐわしっ、と俺に抱き着きながら号泣する少女。

 鼻水と涙で顔中がぐしゃぐしゃになっている。

 よほど怖かったのだろう。体が震えている。

 俺はそんな少女を見て思った。

 汚いから離れてほしいって。

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