第170話 過去のおはなし(6)

さて、目の前にいるドラゴンのおさらいと行こう。


まず名前はイグニールドラゴン。かなりの長寿であり、太古からこの地に住んでいる魔物。


大きさは20m程度であり、一対の大きな赤い羽根と尻尾を持つ。


その皮膚は魔法を通さずにまた熱を常に保ちつつ、かなりの硬度を誇っているうえ、口から放たれるブレスは直撃じゃなくても致命傷になるほどに威力が高い。


「準備はできてる…あとは」


程なくして魔法特有の紋章が空中に浮かび上がる。目を凝らせばそこには宙に浮いたベラドンナの姿があった。


「…やるか」


私は短くそう言うと足元を見る。足元の地面は今、溶岩に変化し、固まっている状態だ。


私は手を前に差出し、手の平を上に向ける。すると地面がゴゴゴと軽く揺れ出し、溶岩の一部などが私の手元に集まる。


それらは徐々に徐々に大きくなっていく。


まず最初にベラドンナの魔法が放たれる。紋章から現れたのは黒くゴツゴツとした鋭利な刃、それがドラゴンに向かって高速で打たれる。


しかしその刃はドラゴンに当たると同時に弾け、融解する。どれだけ熱いんだこいつは…


「はぁ〜、やっぱりこうなるのかぁ」


異常なまでの魔法耐性がこうさせたのかもしれない。あの刃は魔力で精製されているわけだし。


「純粋に行こう」


私はそう呟き、気づけば掘り起こされた岩石が入り混り、ドラゴンの半分程までの大きさとなったその玉をドラゴンにぶつける。


ドゴーン!


しかし所詮半分程度の大きさ、途中でぶつけるための魔法を解除し、純粋な重力や等速のみでぶつけたが無理だ。だが効くには効いた。


ドラゴンは先程と違いギャオー!と声を荒らげている。まずドラゴンの足を潰す作戦は成功した。これで動きが鈍ればこちらも戦いやすくなる。


間接的な魔法での対処でなんとかなる。私はそう思い、魔法で周囲の風を集める。そして…


ヒュッ


ザッ!


それを鋭い刃のようにしてぶつけ、寸出で魔法をやめる。案の定ドラゴンの左足には僅かながらに切り傷ができた。


「一応上位魔法なんだけどね…あの傷か…」


だがやはり状況は厳しい。と、ここでドラゴンが前足を出して歩こうと…


「…へ?」


いや違った。そうだこいつは飛ぶんだった。ドラゴンは羽をはばたかせ、上空へと舞おうとする。私は風圧で飛ばされそうになり、もう少しというところで踏みとどまる。


「…させない!」


そう言ったのはベラドンナだった。するとドラゴンは何故だか地面に叩きつけられる。


ガァン!


ドラゴンが地面に叩きつけられた衝撃で地面に穴ができ、ドラゴンはそこに入る。ドラゴンはうまく立つことができないのか、そのまま伏せの状態でブレスを吐き出そうとする。


しかしドラゴンとの高低差のおかげか、ブレスは地面を完全に溶かすことなく、あらぬ方向、上空に向かって放たれる。さすがに地面全部を溶岩に変えたりとかはできないようだ。よしこれなら…


「ブレスなんかもう慣れ……それは無理」


私は意表を突くばかりだ。ドラゴンは口からだけではなく、尻尾からもブレスを吐いてきた。それも何故だか矛先は私に全てあった。


「…!」


私は急いで魔法を唱えようとした瞬間、ベラドンナがどこから持ってきたのか大砲の弾をドラゴンにぶつける。


ドカン!ドカン!


「…さっき持っといて良かったぁ…」


ベラドンナは安心したようにそう言うとようやく地面に着地する。


「…どうしようか」


「さぁ、もう任せる」


ベラドンナは隣に来ていた。彼女はなおも戦うつもりであり、それはドラゴンも同じだった。


ドラゴンは口からマグマをたらしながら、こちらへと向かってくる。


「まるで火山みたい。おっきなデコボコとかもあるし…」


「火山…」


火山という言葉、あんまり聞き慣れないが確かマグマが地上に吹き出た物だった気が。


異国では観光としても有名な火山の巨大なカルデラが…


「あっ…」


ドラゴンは穴から出てきていた。がっちりとまでは言わない足がやっと穴の中からひょっこりと出てきていた。


「ベラドンナ…第2フェーズね」


「第1フェーズもあったの?倒してないのに…」


「作戦のな!」


私はベラドンナに多少呆れながら、再び魔法を唱えようとする。


今のでドラゴンの特徴は掴めた。あとはするだけだ。大丈夫行ける。


私はそう自分に言い聞かせた。



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