第159話 もう一つの事件(7)

「……まぁ、その話は分かったよ。にしてもすごいね」


「信用してもらえるとありがたいんだがな」


「一応は信用してみる。そんな話、普通じゃ聞けないわけだし」


東京都、中央区にあるパーキング。そこまで歩かされた後に話を聞くことになった。ヒカルは終始、田村という男の話に耳を傾けている。


「エリア51、エリア52、パリと東京の地下基地、中国とロシアの秘密基地、本部は北極。都市伝説じみたもの全てが実は魔物を捕えるための場所だったとは」


「君達は得体の知れない宇宙人は信じるかもしれないが、まさか別次元の同じ人間、超能力者達が蔓延る世界を信じる者は少ないだろう?」


「日本じゃそうとは限らないけどね。ほら異世界物とか…異世界ってそういうことか」


「そちらの話じゃ、中世に近い世界観なのだろう?なぁガイム君」


「まぁ、そうですけど。この世界の中世がどんなのか知らないですが」


俺はそう答えると、田村の隣りにいる中谷という男が声を上げる。


「現状我々は手を焼いているんだ。1900年代あたりはうまく行ってたんだけど、ニューヨークの崩壊からそうは行かなくなった」


「ウォール街の封鎖。地下鉄はいまだに運行停止。経済にしておよそ100兆円の損失」


「世界市場の一つ、香港もデカかった。死者が少ないのが唯一の救いだ」


田村と中谷は交互にそう言うと、ハァ〜っと溜息を付きながら、田村は話を続ける。


「スーダン、アンゴラ、リビア、ウガンダ、コンゴ、ソマリアで内戦が激しくなったのも世界恐慌の原因だ。国連も経済大国の復興に忙しくてアフリカ、南米は放置ときてる」


「ウクライナ情勢もやばそうだしね」


ヒカルはフーッとタバコの煙を吐きながらそう言う。


「…未成年がタバコ吸ったら駄目だと習わなかったのか?」


「俺義務キョー受けてないんだよ」


「そうか…」


中谷は悲しげにそう言うと、それ以上ヒカルを咎めることはなかった。


「…吸うか?新しいのあるよ」


「え?いや俺はいいよ」


ずっとタバコを吸う姿を見ていたからか、新しいタバコを手渡そうとしてくるが断る。


「…まったく未成年のタバコなんて、昔の俺だったらどう言ってたんだろうな」


「別に自分自身の事だからね。肺と心臓が死に行くっていう事は分かるから」


元警察官だと言う田村の言う事にヒカルはこう言った。


「俺らがいた世界と同じもんだな。タバコに酒は問題ありだって言われてた」


「へぇ、そういう観点は一緒なのか」


俺が言った事を中谷は興味ありげに聞いている。


「一度言ってはみたいかもな」


「すぐ死にそうだけどね」


「ハハ、ヒカル君とは気が合いそうだ」


中谷はそう言うと笑い出す。その様子を見ていた田村は胸ポケットで鳴るスマートフォンを取り出し、ただ耳に当てるばかりだ。


「はい私です…何…?」


その時、突然田村が走り出し、ここまでやって来た車に乗り出す。中谷は慌てるようにして田村に話しかける。


「どうした?東京の方でまた何かテロがあったのか?」


「もっとやばい事だ。千葉県館山市上空で未確認のレーダー反応があったらしい」


「…どういうことだ?戦闘機か?」


「いや、ありえない。関東方面、その先の海は太平洋だ。そもそもの国家が存在しない」


「なら一体…」


「立川の東部航空方面隊は現状維持を続けてる…。戦闘機じゃないなら一つしかない」


「まさか…!地球外生命体…!」


「急ぐぞ!君達も…どうした?顔がすごい青ざめているようだが…?」


「…なぁ、ガイム。俺達の家ってどこにあったか分かるよな?」


「……千葉県」

____________________

「すぐにヘリコプターを用意しろ!軍用でも民間でも何でもいい!」


「部隊を全員収集しろ!輸送車を全力で飛ばせ!急げ!」


-東京都 江戸川区 偽造立体駐車場地下基地-


「飛ばせ!早く!」


田村の慌てる声にヘリコプターのパイロットは急ぎ目にメンテナンスを終わらせる。


「田村!UH-1で間に合うのか!?」


「最低でも10分で着かせる。民間人の目を気にしてる暇はない!空自の許可は取ったか!?中谷!」


「問題ない!いつも通り済ませてある!」


そう言った瞬間、UH-1 イロコイはヘリポートとなった立体駐車場の上から飛び立つ。


『現在イロコイ3機で進行中。列を乱すな』


『現地警察と接触の疑いあり!』


『死者数および負傷者数現状不明!』


『ネット上にて存在確認!上陸している!』


『民間機近くに確認できず。そのまま進行続けろ』


『南房総市と館山市の警察はどうしている!?』


「…一気にやばくなってきたな」


少年の声がババババというヘリコプターの音に混じって聞こえる。ヒカルだ。


「さぁ、ただ…なんかいろいろとありすぎだなって…」


「大丈夫だガイム君。我々が全力で助ける」


中谷の励ましの声に少しの安心感をもらう。彼女達はおそらく無事だろう。何故ならめっぽう強いから。


「現在東京湾上空に到着!残り10分には着きます!」


ヘリコプターのパイロットは振り向きながらそう言う。


「全力で飛ばせ!注意を怠るな!いいか!これはテロなんかじゃないぞ!地球外生命体との…戦争だ!」








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