第138話 テロ(3)
2022年 9月15日 日本標準時
午前9時12分
東京都 江東区 首都高速湾岸線 辰巳JCT付近
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「ふわぁ〜っ…」
俺は大きくあくびをする。一番後ろの席なため席が倒せないのが辛い。
「こんな朝早くから行かなくても…」
「お前らには分かんないんだろうけどなぁ、今日は俺にとって記念すべき日なんだよ!」
「そうですかい」
とは言えそこまで熱中できる物がどういうものから気になるものだ。それにだ、家にいる女性陣には出かけてくるとだけ伝えた時、
「なるべく遅く帰ってきてね〜」
アナリスが笑顔でそう言ってきた。悪気はなさそうだったが嫌がられているようでちょっと居心地が悪かった。
「にしてもバス…もう何時間乗ってんだぁ?」
「千葉市からこの高速バスに乗ってっからね。俺はスマホあるから大丈夫だけど…あ、そうだ。面白い写真あるけど見る?」
「何?」
「去年の渋谷のハロウィン。野暮用で東京行った時にコスプレした人がいて面白いから撮ってきた。顔面が何故か赤いウォーリーとか、ボカロのミクとか」
「へぇ、これは世紀末の写真?」
ヒカルが見せてくれた写真には人混みを抑え込もうとする警察官達とヘンテコなコスプレ、中には一般人らしき人もいるがそれら人々が密集している写真だった。あと何故か奥の方で軽トラが横転しているのも気になる。
「ある意味10月の月期末」
「はあ…」
「…………その反応やめてくれ。話が続かなくなる」
「…………この世界に住んで2ヶ月くらいしか経ってないから勘弁」
「そ…ん?」
その時、ゆっくりと高速道路を進んでいたバスが停車する。
「渋滞かな?」
ヒカルはそう言うと体を前の座席へと乗り上げる。周りの乗客もザワザワと騒いでいるがすぐに状況を理解できたようだ。
「渋滞か?」
「事故でもあったのか?」
「こりゃあ結構かかるぞ…」
気づけば周りには車の列ができていた。その止まり具合から察するに先頭の方で何かあったのだろう。
「何だろ?」
「さあ?」
俺は座席から見える窓からの景色を伺う。対向車線はスムーズに進んでいるのが分かる。
「早く行かないkn…」
ガァン!ガァン!ガァン!ガァン!
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…………暗い。何も見えない。目を開けているはずなのに。俺は一体何をしてるんだ?
何も聞こえない。いや何か聞こえ出した。なんだろ…う?
…………
…………
「…っ?ぅっ?」
景色がもとに戻る。いや戻っていない。何故だか横転している。横転しているのは俺なのか。
いや違う。横転している、正確には俺もバスも横になってる。目の前に転がっているのはガラス片とバスの欠片。
「…な…え?」
どうにか体を自由に動かそうとする。だが何かが突っかかっている。俺は腰のあたりを見る。どうやらシートベルトがまだ外れていないようだ。
俺はどうにかシートベルトを外すと、後部にあるはずのバスの非常ドアあたりから外へ出ようとする。
「はあ…はあ…」
息が苦しい。外に出るのもやっとだ。ほとんど這いずりながら外に出る。
「ヒカル…は?」
隣にいたヒカルが消えていた。窓際じゃない
彼の席を咄嗟に確認するがいない。
俺は辺りを見渡して状況を理解しようとする。
「な、何だ…これ?」
広がっていたのは散乱した車、ひっくり返り横になっている車、倒れ込む人々、あちこちから漏れ出るガソリン。上がる黒煙と小さい炎、壊れたコンクリートの道路と標識。
「ガ、ガイ…ム…!」
俺はしばらくして呼ばれたことに気づく。そこにいたのは黒く煤けた顔をしたヒカルだった。その手の甲にはガラスが突き刺さっており血が出ている。
「わ、悪い。窓割ろうとしたら…血が…無事だったんだ…な?」
「だ、大丈夫その手?」
「分かんない。死ぬ程痛いし神経やられたかも」
「何があったんだ?」
「知らな…い。それよりこれ魔法で取れ…」
ヒカルが言い終える前にピキピキと言う音が遮る。
「…は?」
絶望を通り越して俺は怒りすら覚えていた。この高速道路、地面に接しておらず、大きな柱によって支えられた二段道路となっている。
しかしその柱が何かしらの衝撃で今、パキパキと割れているのだろう。段々と高速道路は左に傾き始めたのだ。
「やばいやばいやばい!落ちる!」
ヒカルがそう叫んだ時、左車線に止まっていた銀色のセダンが地面へと落ちていく。そしてその勢いのまま爆発を繰り広げる。
「うわあああ!!!」
かろうじて道路脇の壁に引っ掛かったおかげで滑り落ちることはない。だが今度は車に押し潰されてしまう。いや、それどころか衝撃が強すぎてこの道路自体崩壊することだってあるだろう。
「ヒカル!飛び降りよう!」
「…あぁ、OK!」
俺とヒカルはそう言うとなるべく高速道路から離れるように飛ぶ。
「ぬわあああ!!!」
俺は足から着地しようとする。だが高さは5mを越す。タダでは済まないだろう。
ゴロゴロゴロ
転がりながら地面へと落ちる。ヒカルもうまく着地できなかったようだ。
立ち上がり、その場を離れようとした瞬間
ドドーン!
後ろにあったはずの高速道路は崩れ落ちていた。
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