第45話 ヴュルツブルクの戦い

2022年7月14日 中央ヨーロッパ標準時

午前11時32分

ドイツ バイエルン州 ヴュルツブルク

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11時30分起床。俺はこうなった。この意味がどういう意味かと言うとこのホテルのチェックアウトはずばり12時。


「やばいぞ!早く!」


ヒカルは相当焦りながら女子部屋へと入って行く。ほどなくしてあちらでも騒ぎが起こる。


「おい急げよ!このホテル12時過ぎたら1分ごとに罰金喰らうからな!」


ヒカルはそう言いながら急いでスマホとイヤホンをバックに詰め込む。


「ったく誰だよ…ワードウルフしようって言ったやつ…あのクソ賢者…」


「まぁ落ち着けよ」


昨日俺達はアナリスの提案でワードウルフとかいうゲームをした。面白かったので夜中までやったらこの様なのだ。

ちなみに女子部屋には二人分のベットしかなく、最後にすぐウルフだとバレたキルアが椅子で寝ることになっている。


「よぉーし。準備はいいなぁ!?それじゃあ出発だ」


ヒカルはそう言うと廊下へと出る。俺もヒカルについていくと女子部屋でも騒ぎがあった。


「ぬおートイレ!トイレいいよな!?」


キルアは俺達の返事も待たずに男子部屋のトイレへと入っていく。足踏みをして、下半身に手が行っていたので相当まずかったのだろう。


「…漏らせばよかったのに」


ヒカルは短くそう呟いたのを俺は聞き逃さなかった。


程なくして10分後。なんとかチェックアウトを時間内に済ませ、ホテルの外に出ていた。


「あの…私まだ髪の毛整えてないんだけど」


「大丈夫。誰も見てないお前なんか」


ヒカルはさらっとそう言うとアナリスに右足を思いっきり踏みつけられる。ヒカルはその場でうずくまるとアナリスはざまぁみろと言ったような感じで見下す。


「痛ってぇ!!」


「ヒカル大丈夫か~?それで俺達この先どうすんのさ?」


「どうすんのってガイム。ヒカルが昨日言ってたじゃん。予想以上にお金がなくなるのが早いって」


「痛い…まぁそういうことだから帰ることになるな…資金稼ぎも時間とリスクがかかるし」


「そう。こいつこの前ギャングに見つかりそうになって拳銃構えてたからな」


さらっと言っているがヒカルは拳銃を持っている。その理由はニューヨークで乗り捨てられたパトカーの中に偶然あった物を拝借したらしい。実際彼がバックに物を急いで詰め込む時にも拳銃だけは慎重に入れていた。


「グロック19。癖がなくて良いぞ~」


とまぁさらっと拳銃を持っていることを明かしたが彼、16歳です。あと普通にホテルの中で机の上にポイって置いてあったんだが。


「とりあえず駅に向かおう。電車に乗って飛行機乗るだけの金は多分あるからな」


そう言われ歩き出そうとした時だ。突如向こうの通りの方でドカーンと何かが崩れる音がする。近くにいた人達もそれに気づき、何事かと騒いでいる。俺も驚きの声を上げる。


「え?何?何かあったのか?」


「分かんない。けどなんか嫌な予感がする」


アナリスは珍しく神妙な顔つきでそう言う。


「ここから離れよう。俺もそんな気がする」

「あたしは何も感じないぞ?」

「何があったんでしょうか…」


爆音があった方向とは逆方向からサイレンの音が聞こえる。


「でも何か気になるな…でもまぁ離れたほうが…………」


アナリスはそこで言葉が途切れる。そして


「冗談でしょ…複数体」


「複数体って何が?」


その時カノンとキルアも何かに気づいたようだ。だが俺は何も分からない。


「なぁ、これって」

「えぇ」


近くにいた人達は何かがあった方向、現場へと向かっていくがアナリス達は動かない。ヒカルは歯切れの悪い言葉に痺れを切らしたのか


「おい、何があったんだ?ちゃんと説明しろ」


「魔物がいる。小さい。けど何体も」


ヒカルが何か言うより先に再び爆発音。だが今度は違う。爆発音と同時にそこからは炎が上がっている。周りの人達はその炎を見て、一斉に逆方向へと逃げ出す。さっきまで現場に向かって行っていた人も逃げ出している。


車道を走っていた車が一斉に止まり、乗っていた人が降りたり、逆方向へとUターンしている。だが中には現場へと向かって行く車もあった。サイレンの音はより一層大きくなって俺の隣を過ぎて行く。


「魔物…それってあの」


「ワイバーンと同じ事が起きてる。それも私達の目の前でまた」


「大変です。すぐに行かないと」


カノンはそう言うと現場に向かって走り出す。


「おい、そっちは、待て」


「とりあえず何があったか私も見てくる」


アナリスもそう言うとカノンについていく。


「あたしどうすればいいんだこの時…」


「よし、一緒に行こうか。ガイムも行くよな?俺ら3人で行こう」


「マジで!?行くのか」


「だってあいつらもう行っちゃってるし…」


そして俺達も現場に向かった。すぐ横の交差点では既にパトカーが1台止まっていた。いやパトカーの他にも乱雑に車が止まっている。


ここを左の場所で爆発が…と思っているとアナリスとカノンがつっ立っている。どうやら何かを見ているらしい。


その先に何が…………なんだこれ……?

そこには地面から何かが飛び出していた。いや生えていた。けど明らかにもとからそこにあった物ではなくその周りにはコンクリートが散らばっていたり、車が乗っていたりしている。


まず生えている物についてはトンネルのような物が突き出ているような感じだ。岩でできていると思う。トンネルの大きさは高さも幅も3mと言ったところか。そしてトンネル…トンネルというのはその先にも空間が広がっているという意味だ。つまり何かが出てくるかもしれない。だがそんな俺の心配はいらなかった。


何故ならそのトンネルにいたであろう奴らは、既に地上にいたからだ。


そいつらは人々を襲っていた。斧を持っている者、槍を持っている者、なかには何も持たずにただ拳や蹴りだけで辺りを破壊しつくす者。


車は燃え、焦げくさい匂いが。人々の鮮血による鉄ぐさい匂いが。とにかく現場はひどかった。


さて、これからどうなるというんだ?


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