第28話 ホテルと落ち着き

ホテルに帰った俺達は、各々の部屋で体を休めることにした。

その前にだ…


「それじゃあ洗濯するよ」


アナリスが俺とヒカルの前に立ち、手をかざす。

アナリスの手が緑色に光ったかと思うと、俺の服に染み付いていたジメジメ感が完全に消え去る。


「おぉ、すご。世の中の主婦がこぞって欲しがるような魔法だな」


ヒカルが感想を述べると、アナリスは「じゃあまたね」と言って自身の部屋に戻って行く。


そう言ったアナリスの姿は可愛いと感じさせる。


「あいつあんなんだったっけ?」


ヒカルもどうやら俺と同じことを思ったのかそう言ってきた。案外男同士で気が合うかもしれない。


ヒカルはその後、ガチャガチャと部屋のドアを開ける。俺はその後に続き、何時間ぶりかの我がホテルの部屋を目にした。


「ガイムゥ。俺が先に風呂入っていいか?」


「どーぞ」


俺がそう答えるとヒカルは「サンキュー」と言ってユニットバスがある部屋へと向かった。


俺はその間までに、テレビとか言う物をつけることにした。


リモコンと言う物で操作するらしいがいかんせん使い方が分からない。

とりあえず赤いボタンを……あ、ついた。

テレビではちょうどニューヨークの件についての報道であった。


『現時刻は午後8時30分とニューヨークの悲劇から約4時間が経過しましたが、いまだに火災が続いており、鎮火の目処は立っておらず、救助が難航しているとのことです』


リポーターだろうか。そこにいる人が言う通り、橋をまたいでカメラに映るニューヨークの画像は、夜の闇が辺りをおおっても紅く光っていた。

それだけ火災が続いているということだろう。


『この事件の発端となった、えぇ現在、巨大生物ですが、ニューヨークの街中からその影は消え去っています。この生物の情報はいまだ発表されておらず、様々な見解が飛び交っていますが、我々アメリカ国民の敵であることには間違いないはずです!この惨状を改めて見てみてください!』


リポーターは最後のほうには興奮して前へと乗り出している。


その後は被害状況や専門家による意見などが出たが、結果としてあの生物は分からないとのことだった。

「国際問題」や「宣戦布告」などの言葉がでていたが大丈夫なのだろうか。


「お~い。上がったぞ~」


おそらく10分くらい経ったのだろう。ヒカルが風呂から上がっていた。


「じゃあ俺入るよ」


俺はそう言うと、一気に風呂に駆け込み衣類を脱ぐ。


湯船の中で俺は考えていた。もしこの世界に来なかったらおそらく魔王の幹部と戦うことなど生涯なかったはずだ。

だが不思議と帰りたいと思っていた気持ちが変わっていってる気がする。

そうだ、もしこの世界に来なかったらアナリスやカノン、ヒカルには会えなかった。


アナリスは俺とは明らかに位が違う冒険者だし、カノンは王女だからご法度だ。

ヒカルに関しては住む世界(そのままの意味)が違う。


魔王の幹部はあと何人だろうか。俺達がこのあと俺達と同じ処遇の異世界人を探しに行った場所でまた戦うのだろうか。


考えても仕方ないことだ。魔法で未来を見たり変えることはできないのだから。


俺は風呂から上がり、パパッと頭と体を拭いたあと、さっき脱いでいた衣類を着た。


「お?早かったねぇ」


ヒカルは俺の姿を見るなりそう言ってくる。


「湯船につかりたかっただけだからな。それより早く寝たいし」


「まぁその気持ち分かるわ。てか異世界にも風呂ってあるんだな」


そういえば風呂という文化は共通らしい。


「まぁすっきりしないから作ったんじゃないの?俺の世界もヒカルの世界も」


「因果関係とかじゃないよな?まぁ寝るとしようか。俺も疲れたし」


ヒカルはそう言うと2つあるベッドのうち片方のベッドに飛び込む。


「電気消すぞぉ~」


布団でくぐもった声がする。

俺はもう1つあるベッドのかけ布団をあげ、横になる。

柔らかいとも固いとも言えない枕だったが、それでも睡魔というものは襲ってくる。


すぐにでもウトウトとしそうだったが、ヒカルが話しかけてきた。


「なぁ、お前どっちがタイプだ?」


「どっちって?」


「アナリスとカノン。どっちとも結構美人だぞ。若いってのもあるんだろうが」


あぁ、そういう話ね。だが残念だったな。

俺は生涯女の子とあんなことやこんなことをする相手ではないのだ。

何故ならできないからである(ため息)

まぁでもヒカルが話したそうなので仕方なく話を合わせよう。仕方なく


「あぁ、どっちもいいと思う」


「答えになってねぇー。まぁどっちともスタイルはいいし、顔も良い。あとあれも俺の好みだからな」


「あれとは?」


「胸」


胸?アナリスとカノンの胸か…

てか待て。確か俺が覚えてる限り両方…


「お前貧乳好きだろ」


「そーだ。ついで女子中学生くらいの子が一番好きだ。世間一般ではロリコンとも言われる歳だがこれの何が悪い」


「お、おう。そ、そうか」


「そういうガイムはどんな女がタイプなんだ?」


俺か……たいぷ?どんなたいぷだ?


「ない。考えたこともない」


「…なんというか可哀相なやつだな」


ヒカルに言われるとものすごく悲しくなる。やっぱこの世界来なかったほうが良かったのでは…

_________________

2022年7月11日 アメリカ東部標準時

午後9時21分

アメリカ合衆国 メリーランド州

アンドルーズ空軍基地


青をイメージカラーとさせる1機の飛行機が滑走路へと着陸する。


それに合わせたかのように黒色のキャデラックが3台近づく。


「夜になるのが早いもんだ。時差の影響かね…」


青の飛行機、エアフォースワンの扉が開くのを待っている人物は言う。


そしてタラップ車がやってき、その車に搭載されている階段がエアフォースワンの扉につき、降りられるようになる。


そしてエアフォースワンの扉が開き、中にいた現アメリカ大統領のジョン ヴォイドは階段をゆっくりと降りる。


完全に降りた先に待ち構えていたのは、キャデラックに乗っていたSP達だ。


「お待ちしていました。大統領」


「うむ、ホワイトハウスまで、速めに頼む」


ヴォイドはそう言うと、真ん中のキャデラックに乗り込む。

それを見たSP達も持ち場をつくかのようにそれぞれの車に乗る。


空港から出た先では、数台のパトカーと白バイがキャデラックが来るのを待機していた。


やがて先頭のキャデラックが止まると、パトカーと白バイが先頭へと行き、先導して車列を動かす。残ったパトカーと白バイは車列の一番後ろについた。


夜の闇に赤と青の蛍光灯が辺りを照らしていた。










  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る