第23話 VSワイバーン ln ニューヨーク

2022年7月11日 アメリカ東部標準時

4時02分

アメリカ合衆国 ニューヨーク州

セントラルパーク(緊急避難所及び前哨基地)

____________________


救急車のサインが鳴り響き、無数のヘリコプターが着陸しているセントラルパークで

ヒカルは、シートが敷かれた場所に座り、カノンと名乗った少女と話していた。


「…つまり、ここは異世界であって私達がいた世界とは違うということですの?」


「そういうこと。この世界には魔法なんてないし、逆に君達の世界には、こんな洒落た物なかっただろ?」


ヒカルはヘリコプターの方へ指を指す。


「最初どこにいたの?ほらこの世界に来たばっかの時」


「最初…気づいた時には、ブリッジウォーターという場所にいました。確かその前は…1人でいて、そこで空から石が降ってきて…」


「ふ〜ん、ガイム達と同じってわけか。てかさパニック起こさなかった?ほら、あれとか見てさ」


ヒカルは、救急車を指差して言う。


「それはまぁ、最初は驚いて思わず斬りかかりそうになりましたけども…魔力を感じられなかったので、魔物とは違うって思って何も……それに人が乗って?いましたし」


「あぁ、そう」


ヒカルは内心安心した。もし彼女が、何か騒ぎを起こして指名手配でもされたら面倒だ。警察に追われながら仲間探しをすることになる。


「…正直何がなんだか分かりません。あの空を飛んでいる物も」


空を飛んでいる物というのはおそらくヘリコプターのことだろう。当然といえば当然だ。驚くのも無理はない。


「だから君達みたいな転生して来た人達を集めてんの今。そしたら何か分かるかもしれないし」


「私以外にもこの世界に来ている人達は、把握していましたが、まさか魔王の幹部までだなんて…なんだかすみません」


「いいよ、君が謝ることでもないし。それよりガイム達まだかなぁ」


「ガイムって?」


「あぁ、この世界に来た異世界人の1人だよ。茶髪で灰色の服着てる男の子。多分ここに来るとは思うんだけど」


「それってあの方ですか?」


カノンの視線の先には、茶髪で灰色のジャージを着た……あっ、ガイムだ。


「おーい、こっち!」


俺の声に気づいたのか、隣にいたアナリスが手を振る。


「あぁ、ここにいたんだ。橋渡ったかと思ったよ」


「橋のほうなんか車の玉突き事故起きてんだろ?それよりあのドラゴン倒したのか?」


「ワイバーンだけどね。うん。生き埋めにしてやった」


「あのさぁ、ヒカル。隣にいる人って?」


ガイムがきょとんとした顔で俺に話しかけてきた。


「ああ、彼女も異世界人だよ。君らと同じ」


俺がそう説明した時、ヒカルが声を上げる。


「なぁ、この人どっかで見たことないか?」


「確かに、それは私も思ってた。ガイムもやっぱり?」


アナリスも同調する。それに対して当のクレフは、ただ憂鬱そうな表情をしている。


そして


「私はカノン……ヴェルムート王国第4王女のカノン ヴェルムートです」


…………王女?

王女というのはあれか?あの王様の娘のことか?


ガイムとアナリスの方を見てみる。彼らは両方とも、口をポカンと開けている。


「は?王女?え?王女?ホントに王女なの?」


「そうです」


ガイムのしつこいとも言える問いに、カノンは短く答える。


「…あぁ、なるほどね。私も何か見覚えがあるわけだな。まさかこの世界に王女様が来てらしたとは」


「…私には、王女と言われるほどの資格はありません」


「でも私と息合わせてたじゃん。私一応あっちの世界では、最強候補の1人でもあったけど」


「剣が人よりうまいだけで王女には…それにこの剣技は教えてもらったものですし」


どうやらカノンという人は王女だが、自分が思うよりも自己評価が低いらしい。


「てかここ何?すごいね。たくさん人がいる。皆何してんの?」


アナリスに言われ辺りを見渡して見る。改めてよく見ると、確かにたくさんの人がいた。


V-22 オスプレイから出てくる緑寄りの迷彩服を着た米軍。

せわしく動き回る警察官、救急隊員。

俺達と同じように、シートや芝生のように座って、悲観、絶望などに暮れる人々。


150人以上はおそらくここにいるのだろう。


「ここは…多分避難所だと思うよ。怪我人とかも運んできてるし」


ヒカル自身も警察官に誘導され、いつの間にかここにいたという状態だ。


橋の向こうに避難させるべきだろと思ったが、どうやら橋に民間人が押し寄せすぎて、大混雑しているらしい。それに伴って事故も起きたともなれば、橋としての機能はほぼ失われることになるだろう。


何はともわれあのドラゴンもどきは、アナリスが倒したらしいからわざわざ橋の向こうに避難する必要はない。


なんだかとても疲れた。俺はあのドラゴンもどきと戦ったわけじゃないが、おそらく短時間でいろいろなことが起きたからだろう。


今の時間的には、7月11日の午後4時くらいだが、日本標準時に戻せば、ガイム達と出会って2日は経っている。


ここにきて時差ボケもでてきている。早めに体を休めるべきだ。


「とにかく、泊まる場所を探そう。多分ここら辺のホテルは閉まってるだろうし、しばらく歩くだろうけど」


「賛成〜、私もどっと疲れちゃった」


アナリスは賛成してくれたが、他の2人は…と思ったら2人ともきょとんとしている。これはホテルという単語を知らないパターンだな。


「ホテルっていうのはね…」


俺は2人にホテルというものを説明した。





  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る