第7話 口説かれた



 怒りに任せて説教した後、婚約破棄は婚約破棄のままにする事にした。


 父と母に相談しなければならない事ができたが、これで良かったのだと思っている。


 そんな私はつい先ほどいた場所から離れて、一人でその辺をぶらぶらしていた。


 実はあそこは、ゲーム内では悪役令嬢の断罪現場だった。それが、まさか攻略対象の断罪現場になるとは思わなかった。


 すると、もう一人の転生者である彼が「お疲れさん」とその場にやってきた。


「甘い事だな。あれでよかったのか」

「いいのよ、あんな奴。こっちが願い下げだわ」

「そういや、お前さん、あいつの話ばっかりしてたよね。小さい頃は正統派王子が優しかったとか、正統派王子が恰好良かったとか」

「もう終わった話よ」

「初恋ってそんなに特別なもんかね?」

「当たり前でしょう」


 会話を交わすのは、背中合わせ。

 お互いに顔は見なかったけれど、彼も私もどんな顔をしているのかが、どちらも分かっているような気がした。


「俺は、キャッキャしてた頃のお前さんより、ヒロインと一緒に巨悪に立ち向かっていいるお前さんの方が魅力的だと思うけど」

「えっ、口説いてるの?」

「えっ、口説いてないように聞こえたの?」


 しばらくの無言。

 私は、どうしようもなく惨めな形におわってしまった初恋を、遠くに放り投げた。


「その案件、家に持ち替えって各方面から細かく検討させてもらうわ」

「俺の恋心、お貴族さんのお仕事を扱うみたいにしないでくれませんかね?」


 でも、それほどひどい心境にならなかったのは、境遇が同じである彼がそばにいてくれたからなのかもしれない。


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